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今日もまた、熟した桃を腹に収める。気持ちが悪い。吐息から立ち上る芳香に、自分が桃になってしまったような気分になる。実際、人の体は自ら食べた物で出来ているのだから、自分の体は桃で構成されているのだろう。しびれて来た足をもぞもぞと動かし、霞む目を擦る。

「・・・・・・・・・・・」

もう一度あの塩味を味わいたい、人の指でもなんでもいい。と思いながら唇を舐める。どこもかしこも甘くて、頭が痛くなりそうだ。過剰な糖分は思考を腐らせて、どこかにやってしまう。ああ、栄養が足りないと思いながら床に体を横たえた。

身じろぎをするたびにじゃらりと音がする。逃げ出さないようにと足に、手首につけられた枷は動きを阻害し、肌に細やかな傷を付ける。逃げ出そうにも四肢の末端は痺れ、ながらく動いていなかった体は言うことをきかないのだ。おまけに目もあまり見えない。相手もそれをわかっているはずなのに。

「・・・・・・、ん・・・・・・・・・・・」

まじまじと手首に噛みつく枷を見つめる。殆ど日に当たらないせいで白い肌。真っ赤に塗られた鉄鎖。趣味だな、と思い当って息をつく。この鎖も、桃も、自分を指す名称も、随分悪趣味な人間に拾われたものだ。

「かにば、りずむ、か」

幼いころから桃ばかりをたべさせられ、体に桃の味を移した女。回春の効能。前世、電子の海をさまよっていたときに手に入れた知識がこんなところで役に立つとは。いや、知らない方がよかったかもしれない。自分の運命がわかっていれば、希望なんて欠片も無くなる。

「いやだなぁ・・・・・・」

死にたくないなぁ、と呟きながらめをとじる。重力に従って目じりからこぼれた涙が頬を僅かに濡らす。かぐわしい匂いがする。自分の肌すらも甘くなったのだから、きっとこの涙は芳潤な甘露で出来ているのだろう。

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