死んで花実がつくものは


ここにはまだありませんが軽い人肉食の表現がある予定です





朝昼夜と口に含まされる柔らかな果実は、口内でとろりと溶けて胃の中へと滑り落ち、甘い毒を体中へ送る。嘔吐感にひきつる喉にするどい刃を当てられて、無理矢理に嚥下させられるこれを食事とは呼べないだろう。しゅるりしゅるりと次々に刃物で皮を剥かれて切られ、皿の上に均等に並べられて食されるのを待つ水蜜桃は、未来の自分の姿だ。

「桃娘の調子はどうだ?」
「順調でございます」

飲み込みきれなかった桃の果汁と涎が口の端から垂れる。それを生暖かいぬるりとしたもので拭われて、甘いなと誰かが呟いた。偏った栄養に、それによる病に、だんだんと失われていく視界では誰が誰だかわからない。強制的な食事に体力を使い果たし、目を開ける気力もなかった。

「はやく、完成しないだろうか」

頬を撫でる暖かな手が、蜜にぬれた唇を撫でる。歯列を割って口内に入り込んできた指先に、抗議を含んで軽く歯をたてる。人の肌は塩辛い。甘以外の味に飢えた脳が、これを食べてしまえと顎に信号を送ったのだ。

「こそばゆいな」

くつくつと低い笑い声。無礼な、と喉に再度当てられる冷たい刃物。自由はない、どこにもない。あるとしたらきっと、桃を全て食べ終えたその先にあるのだ。

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