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ふらりふらりと当てもなく彷徨ううちに、私はいつの間にか海へとたどり着いていた。着物や草履などの消耗品だけに消費されていた銭も、そろそろ底をつきそうだ。また働いて稼がなくてはならない。死なないってのも結構大変だ。生きていれば、それだけ何かを必要としてしまう。

「ふぅ、やれやれ」

無心で手を動かす。漁でほつれた網を繕う単純な作業。自分は姿が変わらないのでどこかに腰をすえてそこで働くと言う事が出来ない。不死鳥のように、年老いたら新しい体に生まれ変わることができたならそんなこともなかったに違いないのに。

ちくちく、ちくちく。ほつれた網からは魚の匂いがする。偶に鱗も挟まっている。ほそい縄に食い込んで、きらきらと輝く欠片。針と糸を使う仕事を選んでしまうのはどうしてだろう。苦手ではあるけれど、どこか落ちつくこの作業。ぺろりと唇をなめて手元に集中する。塩を含んだ風のせいで肌がひどく塩辛い。

「そういえばさ、ね、あんた知ってるかい?この前ここの領主さまがお亡くなりになってしまっただろう」
「・・・・あ、すみません。私、つい先日ここに来たばかりなので」
「おやまぁ!そうだったのかい、何処から来たんだい?」
「・・・・どこから」

はて、自分はいったい何処にいて、何処からここへたどり着いたのだろうか。
答えようがなく黙り込んだ私に、わざわざ話しかけてきてくれた女性は何か変なものでも見るような眼をして答えたくないのならいいよと言った。申し訳なさにぺこりと頭を下げる。顔をあげると、その女性はもう他の人間と話をしていた。ふぅ、とひそかに溜息をついて網を縫いなおす作業に戻る。

今のところ死ぬ当てがない私にとって、情報はいくらあっても足りない。このような機会を潰さないように、次からは場所の名前も覚えておかねばと思った。

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