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食べずとも生きて行ける体ではあるが、だからといって物を食べない理由はない。小さな港で暫く生きていくのに十分な金を稼いだ後、私は適当な茶屋で団子をいくつか買った。気晴らしにそれを食べながら、また旅に出ようと思ったのだ。ここらに居ついてからもう5年ほどになる。そろそろ出発の時間だ。

「………」

暇だから出来たら海辺にそって歩こうと、簡素な包みから団子の串を一つとりだしほおばりながら恐らく海へと続く道を歩く。この殆ど人の手が加えられていない道も、あと数百年もすればコンクリートに埋め尽くされるであろうことを考えると不思議な気持ちになった。私はその時まで、生きているのだろうか。不老とはいえ不死なのだろうか、さすがにばらばらになったら死ぬような気もするし。

「お、ハマグリ」

だんだん強くなってくる潮の香りに目を細め、こころなし早歩きで道を進む。しばらく歩けばやはりそこは海辺で。私は草履に砂が入ることも気にせずにさくさくと砂浜を歩いた。冷たい灰色の人工物が何一つとしてないその砂浜には沢山の生き物がそのまま住んでいて、私は暫くそれらを掘り起こして遊んだ。だって天然の潮干狩りだ。手のひら大、とは言わないまでもとても大きな貝が、砂を掘り起こすとざくざく取れる。

「……そこの、」
「うん?」

酒蒸しにしたら肉厚で美味しいかなぁと手のひらに立派なハマグリを乗せて考えていると、後ろから誰かに声をかけられた。少し高めの、子供の声だ。振り向くとそこには少し古ぼけた着物をきた一人の少年が立っていて、何故か私のことをじっと見つめていた。

「何か?」
「………その、」
「はい」
「その、手に乗せている貝はどこで取れる?」
「へ?あ、ああ、この貝ならほら、この砂浜を掘り起こせばすぐに」

少年は、港町の子供にしてはやけに綺麗な言葉使いをしていた。それにしても変な事をきくなと思いながら、少々きまりが悪そうにそんなことを訪ねてきた少年のために、自分の足元の砂を素手で掘って見せる。ごろりと出てきた大粒の貝を見て、少年はおおと感動するような声をあげた。

「なるほど、このようにして糧を得ればいいのだな・・・助かった、そなたには礼を言おう」
「ああ、いえいえ」

そんな大したことはしていない。ただ教えただけだ。それもここらへんの子供ならだれでも知っていそうなことをだ。私はそこまで考えて、ふと、あることに気が付いた。彼はおそらくこの漁村の子供ではないのだ。言葉遣いだって、すごく丁寧だ。きっと偉い人のところのお子さんで、それでいてそんな恰好をしているのは何か理由があってのことだろう。

「でも、貝だからね、あんまりお腹がいっぱいにはならないと思う。それなら魚を釣ったほうが何倍もいいよ・・・・ここら辺に住んでるの?」
「あ、ああ。そうだ。先日から、乳母と共にこちらで・・・その、魚の釣り方とは?」
「そうだなぁ、例えばだけど。糸や髪の毛を使ってね」

丁度いい、と私は自分の髪を一本抜いて、そこら辺の棒に括り付けた。釣り針のようなものも実はいくつか持っている。時間がいくらでもあると、そういうことで暇つぶしをしたりしていたから・・・なかなかの腕前を持っていると自負しております。

「砂浜じゃあつれないんだ。だからもう少し岩があるところで釣ったほうがいい。なにか餌をつけてね」

例えば・・・この団子とかがちょうどいいだろう。荷物から取り出した団子の包みを開けて、釣り糸にそれをつける。すると少年の目線が動いて、喉がちょっと動いた。それでお腹が減っているのだな、とわかった。

「あっちで試してみようか」
「・・・うむ」

近くの岩場を指さすと、少年はすこし考えた後にうなずいた。素直だ。食べ物がかかっているからだろうか。食べながら歩こうかと団子を渡すと、驚いた顔をした後に受け取って、すごく幸せそうな顔をして食べていた。どうやらお団子は好きな食べ物だったみたい。それにしても子供が喜ぶ顔って、やっぱりかわいいな。

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