シャチ28


ごぼごぼ、ごぼごぼ。男は空気を吐き出しながらしたに沈んでいく。私はそれを追う。男の手から武器が落ちて、それがなによりも先に下に落ちていく。海底に埋もれたら、もう二度と見つけられないだろう。

「………ぎゅう」

どこからどうみても、男は死にかけていた。いまにも棺桶に両足を突っ込みそうだった。それでも私は追った。もう助けようとは、思っていなかったけれど。

「……………、…………、、」

ぷくり。男が口から最後の空気を吐き出す。塩水はとても目に染みただろうに、彼は目を開けたままだった。少し泣きそうな顔をしていたが、溺れた人間にしては珍しいことに上に手を伸ばしていなかった。

どんどん、どんどん。男は沈んでいく。悲しげな表情のまま、上を見つめて。

最後に、彼の鎧の欠片を拾っていこうかと考えたが、それはやめた。何も遺品をひろって蒸し返すことはないのだ。

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