シャチ27


夕暮れの中、ぼうぼう音を立てて燃える船。波間に漂う人の死体。海中に漂う甘く生臭い血液の香り。地獄絵図とはこういうものなのだろうかと一瞬真面目に考えた。

「ぎゅ・・・」

海の上からでも届く熱に、一瞬近づくのを躊躇した。それでも彼を確かめようと勇気を振り絞って船に近付く。微かにきんきんと刃物同士がぶつかり合う音が聞こえるので、道案内は必要ない。元親はあそこにいるのだろう。

未だなお燃え盛る木切れや、死体を避けながら進む。ある程度船に近付いた所で上を見上げれば、そこには元親と、それからうみねこの噂そのものの姿をした人間が睨みあっていた。全身を緑の鎧でかため、フラフープのような刃物をもって、碇を模した武器を持つ元親と渡り合っている。時々その武器からぴかりと光がはなたれ、それを元親がなにをどうやってかは知らないが炎で跳ね返している。もはや私の知る人間の戦いではなかった。

「―― 、――――ッ!!」

何かを叫んだ元親が、一際大きく碇を振りかぶった。緑の武将がそれを受け止めようとしたのか、特徴的な武器の前に輝く盾のようなものを作り出す。でも、それは碇にぶつかって粉々に砕け散った。船の上から少なくない量の血液が落ちてきて、海水と混じって消える。

「・・・・ぎぃっ!」

それから少しして、上からまっさかさまに落ちて来た人間の元に私は急ぐ。あの人形は元親のものではなかったけれど、きっと彼の敵であるのだけど。それでも、私にはみて見ぬふりは出来なかった。



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