シャチ29


海の外はとっても穏やかだ。この前の戦のせいでいろいろなものが転がったままの海の中をみないようにしながら、私はいつもの場所で元親を待つ。元親は偉い人になったようなので、これる頻度が減った。それでも彼は大体七日に一度のペースでここにやってくる。戦をやっていたときはそうもいかなかったが、ウミネコが言うには人間は大人しくなったそうだから、そのうち来てくれるはずだ。

「まだら」
「ぎゅいっ」

手持無沙汰にちゃぷちゃぷと引いては押し寄せ、岩場を洗う波をぼんやり観察していればじゃりじゃりと砂を踏む音。顔を上げれば勿論元親。お久しぶりだねと挨拶を交わして元親はどっこいしょと岩場に腰かける。ん?ちょっと痩せたかな。頬の部分がまえよりしゅっとしてるような気がする。

「あー終わった、やっと終わった。これから忙しくなる」
「きゅう・・・・」

大きなため息をついて、元親は上体を倒してぐたりと私に寄り掛かった。恐らくあの戦の話をしているんだろうとあたりをつけて、のど奥で返事を返す。戦とか戦争とか、そういう出来事が無くなったずっと後の時代に生きていた私には、戦後処理をどうするのかはわからない。でもこの時代じゃそういうことを終わらせるのはとても時間がかかるのではないだろうか、だって情報伝達手段が人の足か馬ぐらいしかないっぽいし。

「今日はなんとか出て来たけど、まだらにも暫く会えなそうだなぁ」
「ぐぅ」

それはやだなぁと思いつつ舌で彼のほほを舐める。元親はくすぐったい、と笑った。以前と変わってしまったことは数多くあるし、傷は決してなくなった訳じゃない。でも、それでも一応日常は戻ってきたんだろう。

「ぎゅっ」
「ああ」

応援しているよと私は元親に告げた。元親はありがとうと答えて私の頭を撫でた。彼の指が意識しなければ分からぬ程度に、そこのある一点をなぞる。私は目をつむって、それを甘受した。


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