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食道が、何かを孕んでいるかのようにひどく重かった。薬師が告げた腫れ物は、自分ではどこにあるのかわからず、探っても見つけることができなかった。夢を見れば窓が空いてしまうし、薬はまずく砂糖菓子は甘い。夢と現の境をふらふらと漂っているうちはまだよかったけれど、一歩足を踏み外せばどちらも地獄である。

「腫れ物、でございますか?どこにも見受けられませんが」
「あら?……………わたし、たしかに喉と胃の腑に腫れ物があると聞いたのだけれど」

ごりごりと得たいの知れないものをすりこぎで磨り潰す薬師に腫れ物のことを聞いても知らぬ存ぜぬ。あれはなんだったのかと苦い薬を飲み下すもはたしてこれは効いているのかいないのか。はぁはぁと嫌な臭いがする熱い息を吐き、冷たい指で柔らかな布団を握り締めても全く意味はないのだ。夢をみるのか現をみるのか、もうそろそろ区別はつかず、窓の蝶番はだんだんと緩み始めている。

「………黒い、篭が近くなってきたの」
「……………」

私の側に付き添う鶴姫にぼんやりと声をかける。ほんとうにこれは現なんだろうか。私と彼女を繋げる熱い指と冷たい手がそのかけはしになっている。彼女がいてこそ、私は戻ってこれるのだ。しかし、それでも時間は近づいてきていて、TV搭からは黒い人間が派遣されてくるのだけど。

「ねえさま、ねえさま、」
「……………なぁに?」
「わたし、怖いです」
「先見の巫女が、一体なにを、そんなに怖がるの?」

ほろり、ほろりとそのまろい頬を伝わって下へと落ちていく水滴を眺める。終わりがないのではないかと思うほどに最近の鶴姫はよく涙を溢す。目玉はまだ蕩けていないが、それも時間の問題ではないかと私は密かにしんぱいしているのだ。

「死ぬのが怖いのです。ナマエ姉さまも私も、何故死ぬのでしょう。私にはわかりません」
「あなた、なにを見たのかしら」
「……自分の、運命を、」

先見で、視てしまったのです。と片手で顔を押さえて泣き出した鶴姫の姿を私は茫然と見る。自分の死を見るなんて、私だって経験したことはない。病の暗示はあったけれど、それはただそれだけの話。最近窓の外にTV搭から電波された影をみるけどそれは私が死に近づいているから。でも彼女の、鶴姫の側に病の影は見当たらない。彼女が発症する未来も一度もみたことがない。

「いつなの、それは。貴方が死んでしまうのは」
「………さんねんごの、海で、」

船とともに、私は黒く死ぬのです。と涙のせいで不明瞭な言葉で、彼女はゆっくりと先見の結果を私に語った。繋いでいる指先がだんだんと私の掌と同じ温度になってゆく。ああ、繋がりが切れるのだと、同じように涙を流しながら私は頭のはしっこで深淵の理由を耳にしながらそう思った。

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