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微睡みの境目で見たのは逆立ちの金魚鉢。スプートニクはライカを乗せて遠い旅にでた。その代償として珊瑚礁の雪景色を持ち帰り、遠い海で鯨の漁を行う。ぐにゃりと揺らぐ母上はどこかくらげのような形をしている。

『喉と、胃の腑に大きな腫れ物が』
『巫女様の体力次第ですが、このようすでは恐らくは』

犬と太鼓の交尾の間にぱらぱらとうつつの言葉が降ってくる。雪のようにふんわりとまい、途方もない砂漠をあるく烏賊の上に舞い降りたそれはパソコンが電源を落とす前にゆっくりと崩れてしまった。窓は閉め直す前に選挙されてしまって、TV搭はゆっくりとその大きさを増していく。いつか銀河に届くだろう。誰もかもが望むままに。

『いやです、いやですねえさま』

ああ、誰だろう泣いているのは。さあバットを振りかぶって。りんごに潜り息を散らした私の後ろの首筋を、同じように潜り込んだ虫がちくりと噛むものだからやっと襖が閉じたのだ。

「………目が、………蕩けてしまうわ」

つるひめ。と掠れた声で、私の胸に頬をつけて泣きじゃくる彼女に向かって私はそう呟いた。顔を上げた彼女の目からぽろぽろとこぼれおちる涙を震える右手で拭おうとして、それを彼女の両手に包み込まれる。それがあまりにも熱かったから熱があるのではないかと焦ったけれど、自分の手が冷えていることに思い当たって私は僅かに目を伏せた。
体の奥はこんなにもあついのに、指の先はこんなにもつめたいのだ。

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