佐助成り代わり8


「これからよろしゅうな!さすけ!」
「はい、弁丸様」

目の前でにかにか笑うちっちゃな男の子。そう、これが私の子守り相手であり主である真田弁丸様だ。真田昌幸様の嫡男であり、現当主候補。一人腹違いの兄がいるらしいが、その兄は病弱で、ここ暫く床から出られない生活を送っているそうだ。本人たちの仲は宜しいようだがそれをよく思っていない方が一人。兄上殿の母上君である。

弁丸様の母親は既に亡くなっており、しかも側室と言うことで大層肩身が狭い思いをしていたそうだ。昌幸様は正室に頭が上がらないらしく、まぁ、その、なんといいましょうや。弁丸様は兄の母から命を狙われており、態々忍びを雇ったのもそのためだと言う。それにしても、複雑な家庭環境にいる割にはかなり明るい子供だ。鈍いのだろうか、いやそんなわけない。子供と思って侮ることなかれ、だ。どんな小さな子だって演技の一つや二つ、簡単にこなす。

「さすけ、こっちにいこう」
「はい、弁丸様」

くすくす。何がそんなに嬉しいのか、幸せそうに笑いながら私の腕を引っ張って、何処かに連れていこうとする弁丸様。途中ですれ違った女中が、私の髪色にいやな顔をしたのを受け流して、只前を向いて真っ直ぐに歩く。汚いものを見るような視線ももう、なんてことはない。私の心はそんな事では揺らがなくなった。やはり人間、慣れである。

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