4


だんだん、卵がよく動くようになってきた。前はほんのわずかに右に左に動くぐらいだったんだけど、いまじゃベッドの上で横になったり反対になったりと忙しい。あんまり動きが激しいものだから、チェレンさんに相談することにした。

「……ずいぶんと元気な卵くんだね」
「はい、僕ちょっと心配で」

ヒオウギのジムリーダーであるチェレンさんの元へ卵を抱えていくと、チェレンさんは待っていたよと僕を迎えてくれた。メイお兄さんから先に連絡を受けてたみたい。

「いや、固体差はあるけど、孵化寸前の卵はみんなこんなもんさ」
「えっ、こんなにうごくの?」
「まえに僕の親友が孵してた卵はすごい暴れようだったよ。はやく外に出たかったのか、ずっと動いてるんだ」
「うわぁー……」

僕のベッドの上であちらこちらと転げ回る卵を想像して僕は思わず声を漏らした。そんなに激しくうごかない子でよかったと思いながら腕のなかの卵を抱き直すと、その考えを見透かしたようにチェレンさんは小さく、くすくすと笑った。

「その子が孵ってしばらくしたら、どうだい。僕のジムに挑戦してみないかい?」
「いいんですか?」
「もちろんだよ」

挑戦目的じゃなくてもいつでもおいで、といってくれたチェレンさんにお礼を言って、僕は卵を抱えて家に帰った。

「ただいま!」
「あら、おかえりなさい。チェレンさんはなんて言ってた?」
「あのね、もうちょっとでふかするっていってたよ。あとね、この子がかえったらジムに挑戦しにこないかって」
「それはよかったわね」
「うん!」

お母さんにも抱っこさせて、と言われたので僕は卵をお母さんに渡した。腕の中で揺れる卵に元気ねぇと笑って、お母さんは卵をゆっくりと撫でた。

「ナマエが私のお腹の中にいたときも、こんなふうに元気にうごいていたのよ」
「僕、卵だったの?」
「ううん、人間は子供をお腹の中で育てるの。でもこうやって、孵化する前の卵みたいに、生まれる前の赤ちゃんも元気にお腹の中で動くの」
「へぇー……」

赤ちゃんはみんな元気なんだね、と僕が言うとお母さんはそうねと言ってさっき卵にしてたように僕の頭をやさしく撫でてくれた。


prev next

[back]