3


卵は、なかなか孵らなかった。お父さんは卵を孵した時、仲間のポケモンたちと一緒にもち運んでいただけらしくてよくわからないらしいし、お母さんは孵したことがないって。

「お兄さん、卵を孵すのはどうすればいいの?」
『あれ、孵らない?』
「うん。撫でると、ちょっと動いてるんじゃないかなって思うときはあるけど………」
『あ、それなら大丈夫だよ。中の子は元気』

だからライブキャスターを使ってお兄さんに相談した。そしたらお兄さんは卵の殻はとっても厚いんだよと教えてくれた。なかの子供が怪我をしないように、うんと丈夫になってるらしい。

『さわってそれだけわかるなら、あと少ししたら孵ると思うよ』
「ほんと?よかった」
『僕は今忙しくてなかなかそっちに帰れないから………そうだ、チェレンさんにみてもらうといいよ。彼はとってもポケモンに詳しい』
「チェレンさんって………ジムリーダーの?」
『うん。ほんとに頼りになるから』

何かあったら頼った方がいいとそう僕にアドバイスをくれたあと、お兄さんはこれから用事があるからと言って電話を切った。ぷーー、と小さな電子音をたてて相手との通話が切れたよと主張するライブキャスターを見つめてから卵に目をやる。メイお兄さんはポケモントレーナーになってからとっても忙しそうだ。僕もこの子が孵ったらとっても忙しくなるのかな。

「でも、とっても楽しみ」

早く出ておいでよ、と卵に向かって声をかける。もちろん卵はそれに返事はしないけど、そのかわり僅かに、ほんの少しだけ右にむかって傾いた。


prev next

[back]