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食べた途端に満面の笑みを浮かべながら、ぱくぱくと団子を腹の中に収めていくお偉いさん―俺は密かに「ちゃいろいの」と呼んでたりもする―は大抵帰る時にはそのまま。つまりにこにこしながら帰っていく。来たときの仏頂面はなんなのかと聞いてみたいが、そんな風に表情が変わるぐらいにうちの団子が美味いということなのだろうか。そうだといいなと思っている。

「すまぬが、勘定を頼む」
「はぁい」

差し出された金を受け取って、またお越しくださいと頭を下げる。いつもならそこで立ち去っていくお偉いさんは、何故か今日はそこに座ったままだった。不思議に思って首をかしげる。

「どうかなさいました?」
「いや、・・・・・・あの鷹はこの店の物なのかと思うてな」
「ああ。はい、そうです」
「そうか、見事な毛艶をしておられる」
「あら、ありがとうございます。あの子、私の鷹なんです」

彼の視線の先には、はいいろがいた。いつもだったら外に居る事が多いのだが、今日は先ほどから大人しく天井中央の止まり木に座っている。ずっと目をつぶっているが具合が悪いわけでもないようだから、どうやら眠いらしい。起こす必要もないのであのままだ。

「もしや、つばめ殿は鷹狩りをしなさるので?」
「ええ。休日には必ず行っておりますよ」
「女性にしては珍しい」
「鷹が空を飛んでいるのを眺めるのは、楽しいですからね」
「確かに、あれはよいものです」

俺の返答にゆったりとした頬笑みを浮かべたお偉いさんは、ではこれでと言って去っていった。はいいろに興味があっただけらしい。

その後ろ姿を御見送りしてからふぅ、と息をはいて後ろを振り向く。すると、いつのまにか厨房から両親が出てきていた。珍しい事もあるものだ。

「・・・・・・どしたの?」
「つばめ、お偉いさんはやめとけ」
「そうよー、もっといい人見つけてあっからー。偉い人んとこは大変よ」
「嫁にいくつもりはないけど」
「そういうでないよ。全くこの子は」

誰か嫁にもらってくれんかね、と店内に呼び掛ける母の声にあちらこちらからはいはいと手が上がる。それを無視して俺は深く溜息をついた。人間めんどくさい、蛇に戻りたい。

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