6


町についた両親は、甘味屋を始めた。今まで農作業しかしてこなかった俺らが何を、と最初は呆れたがなんと母は甘味屋の娘だったらしい。昔はよくこうして親の手伝いをしていた、と大きな鍋に一杯の餡子を作りながらにこにこ懐かしそうに微笑んでいた。その腕前はかなりの物で、中心部から離れた所にあるにも関わらず毎日沢山お客がきてくれる。

「つばめちゃん、みたらし二つね!」
「はいはい」

ちなみに俺は看板娘。初めてきる着物に最初は戸惑ったものの、今は華麗に着こなす事が出来るようになった。あいにく、そこらへんの娘のように媚は売らない。いや、売れない。俺の体は雌だが、心はそうじゃないもんで。

「つばめちゃん、蓬団子ってまだあまってるかい?」
「4つだけならありますよ」
「じゃあそれを全部つつんでくれ」
「はい」

でもそれがいいと言う常連客もいる。無表情がいい、らしい。そう言われても残念なことに俺は周りの人間はほぼ同じ顔に見えるので、好意をもたれてもどうしようもない。蛇なら良しあしがわかるんだが。

わいわいと町人達がひしめく店内を、あちらこちらと駆けまわる。団子を皿に載せたり、お茶を淹れたり、客と世間話をしたり。そんなこんなで早5年。そろそろ婿を取るだのなんだのと親は話をしているが、勘弁してほしい。正直な話、人間には興味がないのだ。一応跡継ぎは生まれてるんだからいいじゃないか。まだ3歳だけど。

「すまぬが・・・まだ団子は余っておるか?」
「三色団子とみたらしと桜が残ってますよ」
「ではそれを2つづつ頼む」
「はいはい」

あかいのに似た髪の色をしたお偉いさんが、ひょいと顔を出した。彼がいると町娘が必ずきゃあきゃあはしゃぎながら店に入ってくるので、かなりの二枚目なんだろう。俺にはわからないけど、彼女たちの反応をみればそれぐらいは推測できる。

「お待たせしました」
「うむ」

席についたお偉いさんの前にことりと団子とお茶を差し出せば、彼は無表情のままゆっくりとうなずいた。傍目に見ると気難しい武家さんだが、俺は知っている。奴が大の甘味好きだと言う事を。

「・・・・・・」

だって彼、うちの団子食べると顔が崩壊するんだもの。

prev next

[back]