シャチ24


海の中に飛び込んで私に抱きついた弥三郎は、何度もありがとうと繰り返して笑った。意味はわからなかったけど久しぶりに弥三郎にあえたのはとてもうれしかったし、話せて楽しい。でも私には彼が笑いながら泣いてるように見えるのだ。目じりに水気はないけれど、見えない涙が流れているような。

「ぎゅ・・・・?」
「・・・・・ああ、まだらは知ってたのか」

だからあることを尋ねたら、あいつらは海に流れていったんだもんなぁと呟いて弥三郎が苦笑した。やっぱりあの死体達は弥三郎の知り合いだったんだ。

「まだらの御蔭だ。お前の御蔭で俺は友を二人、無くさずにすんだ」
「・・・・・・・?」
「虎之助を、・・・海で泳いでいた人間を助けてくれた逆叉は、まだらだろ?」
「ぎゅうっ!」

ああ!と納得の声を上げる。やっぱりあの声は弥三郎だったんだ。幻聴じゃなかったんだ。彼はちゃんと助かったんだな、よかった。本当に良かった。随分弱ってたから、あのあと死んだんじゃないかと心配してた。

ぱしぱしとひれで海面を叩く私の頭を弥三郎が優しく撫でる。

「これから俺は、あるところに行かなきゃいけねえんだ」
「ぎゅい・・・」
「まだらがあいつを助けてくれなかったら、俺ぁとんだ勘違いをしちまってた。・・・・まだらが人間ならな、俺が用意出来る物を何でもやるんだが」
「きゅおっ!」

そんなものはいらないと首を振る。もし私が人間に戻っても、褒美なんてほしいと思わないだろう。私が望むのはただ一つ、また貴方と話をすることだけ。

海の中はとても退屈なんだと弥三郎に訴えると、彼は大声で笑い始めた。腹を押さえながらひぃひぃ笑う弥三郎の目じりに浮かぶ、小さなしずく。くしゃりと歪みそうになる顔。私はその水滴が大きな大きな珠になる前に、ひれで彼の顔に思い切り海水を叩きつけた。だって弥三郎の涙なんて見たくなかったのだ。

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