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よく焼けた肉の塊をはいいろがぱくぱく啄んで食べている。 俺とあかいのはもうそれを見ているだけだ。はいいろは兎を届けてくれたあとに、大きな蛇を一匹と怪我をしたこぎつねを一匹捕まえてきた。流石に狐は食べなかったが、蛇は美味しくいただいたので俺はもう腹一杯。あかいのもそれなりに食べていたのできっと同じくそうだろう。
おっと、共食いなんて言うなよ。今の俺は人間だし、そもそも蛇だった時だって同族は食べ物としか見れなかった。共食いしないのなんて人間だけじゃないか?少なくとも俺が住んでいる村には人食いはいない。

「兎の毛皮は良い値段で売れそうだ」
「………」
「蛇の皮もな」
「……狐は?」
「うーん。狸ほどじゃないが売れるのは間違いない」
「………」
「売らないけど」

俺が育てる。と横で丸まっている狐の背中を撫でる。親とはぐれたのか、それとも怪我のせいで見放されたのか。小さな狐の体はぼろぼろのがりがり。肉を食べてぽこりと膨れた腹が不思議な形をしている。

「つばめは」
「ん?」
「何かを育てるのがすきなの?」
「そういうわけじゃないけど」

今は楽しい、きっと満ち足りているからだ。
微妙に肉がついたままの骨を掌でくるくると回す。余裕があるから生き物を育てる。今は飯があるから、腹がいっぱいだから俺は優しい。でもきっと腹をすかしてたら、はいいろと子狐は今ここにいないだろう。さっき食った兎と蛇みたいに。

「そんなもんだろ」
「・・・・・・」
「あかいのはちがうの?」
「・・・・・・わからない」

あかいのは少し眉をよせて、すぐ近くの山の上をにらんだ。もう一度わからないと呟いて、むくりと立ち上がる。行くのだろうか。

「ばいばい?」
「・・・・・・・」
「またね」

あかいのはいつも振り返らない。はいいろを拾ったときに、一度だけ振り返ってくれたけどそれ以降は全く無し。返事も返さずに駆けていく。

「・・・・・・」

あかいのは何者なんだろう。彼は気配がしない、足音がしない、時折鉄の匂いがする。それは血の甘い匂いじゃなくって、俺が持ってる鉈みたいな匂いだからまだいいけれど。

「はいいろ、・・・・・きいろ」

はいいろを肩に乗せ、兎と蛇の皮を両手に抱えて俺は帰路につく。その毛皮の上には眠ったままの小さな狐。名前はきいろ。新しい家族だ。

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