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俺が拾った雛は肉片や虫をもりもりと食べてすくすくと大きくなった。もう俺をみて威嚇することなどない。それどころかぴぃぴぃと鳴きながら後をついて回る始末、こいつはもはや鷹ではなく犬だ。犬鷲だ。

「はいいろ!」

ピィーーと甲高く鳴きながら空を舞う鷲に向かって声を張り上げる。すっかり大人の鷲となったはいいろ(雛の時は汚い灰色をした毛玉だった)は上手くその声を聞きつけてばさばさと俺の腕に降り立った。皮を腕に巻きつけているので痛みはないが、まだ9年しか生きていない俺にははいいろの体は少々重い。

「お帰り」

毛繕いをしているはいいろの近くに顔を近づけると、はいいろは俺の鼻を甘噛みしてきゅろろと鳴いた。いい鷹だ。きっと売ったら良い金になるだろう。売らないけど

「つばめ」
「久しぶり、あかいの」

ぐりぐりとはいいろの頭を撫でていると後ろから声がした。この声はあかいのだ。何度頼んでも固くなに名前を明かさない彼を、俺は無理矢理あかいのと呼ぶことにした。

「その鷹」
「大きくなっただろ、あかいのに羽をあげようとした時の鷹だ」
「そう」
「はいいろって言うんだぜ」

そう言ってにこりとあかいのに微笑んでやったが、あかいのはただふぅんと興味なさげに声を上げただけだった。ふむ、他の人間はこうして笑ってやるといくらか優しくなるもんだがこいつは違うらしい。

「今日はどうしたんだ」
「別に」
「そうか、ならはいいろの狩りをみていくか?」
「・・・・・・」

あかいのは返事をしなかった。聞き直すのがめんどくさかったのでそれを了承ととらえ、はいいろを乗せている腕を高く上げる。ぎぃ!と鳴いたはいいろがうまい具合に吹かせた風に乗って空高く舞い上がった。二人してそれを見上げる。

「はいいろが獲物をとらえたら、あかいのも食うか?」
「・・・・・・」
「岩塩があるから、どんなものでも不味くはならないぞ」

腰につるしてある袋から取り出した小さな岩塩の欠片をあかいのに渡す。おずおずと手に取り、しばらくそれを眺めていたあかいのはふと前をみてあ、と声を上げた。

「お、」

はいいろは大きな兎をとらえて来ていた。手をひろげてそれを迎えるとはいいろは兎を俺の胸に落として空高く飛びあがっていった。また獲物を見つけたのだろう。

「あかいの、食おうか」
「・・・・・」

はいいろが飛んで行った先を黙って見つめていたあかいのは、俺が鉈を取り出して兎をさばき始め、血を抜いてから火を起こし、焼き始めた所でやっとこちらに顔をむけた。もしかしたら手伝うのがいやだったのかもしれない。

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