シャチ21


そうして太陽が頭の上に来る頃に、私はようやく昨日の船らしきものを見つけることができた。背中に乗っかっている男の人はもうそろそろ限界っぽかったし、良かった良かった。背鰭にぐたりともたれ掛かっていた彼に一声鳴いてそれを知らせる。

「う……。ふ、ね?」
「ぎゃお!」

遠目に見える黒いかたまりに向かって一生懸命に泳ぐ。最初は半信半疑だった彼も近づくにつれてそれが鯨でもただの岩でもなく船だ、と言うことに気がついたらしい。私の背中の上にたって、手をふり始めた。

「おおーい!おーい!」

兄貴ー!と男が大声で叫ぶ。彼が落ちないような速さで泳ぎながら船へ向かって一直線。次第にその全貌が見えてきた。

「おーい!!」

とても大きな船だ。船べりに沢山の人が集まってこちらを眺めている。綱をもっている男、銛をもっている男、ただこちらをみているだけの男、話をしている男、手を振っている男。うーん女っ気がない。男性ばかりだ。

「おおいお前らっ!兄貴っ!兄貴はいるか!」

船の横に着き、男が綱で引き上げられていくのを見送る。がやがやと声がして、その兄貴とやらがこちらに来る前に私は海の中に逃げ込んだ。背中がやけどでもしたかのようにひりひりと痛む。当たり前だ、ずっと海面に出していたんだもの。日に焼けもする。

「ぎゅう・・・・」

ああ、ひれが疲れた。
ごぽごぽと口から泡を吐き出しながら私は海の底に沈んでいく。ちょっと休んだら群れの元に戻ろう。海流に身をまかせながらぼんやりと海中にたゆたう。睡魔に負けて意識を落とす前に、どこかで弥三郎の声が聞こえたような気がした。まだら、と私を呼ぶ声だ。懐かしいなぁ。

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