シャチ20


慌てる男を乗せて、私は陸へと急ぐ。男は最初こそ私を板で何度か殴り付けたけど、そんなのじゃシャチの肌は傷一つつかなかった。だから諦めて、今じゃ大人しく私の体の上で座っている。

「兄貴ぃ・・・俺夢でも見てんじゃないだろうか」
「・・・・ぎゅぃ」

兄貴、と誰かを呼ぶ男の声を聞いて、私が思い出したのは昨日の船の兄貴コール。いやまさか、そんな偶然あり得る訳ないよなぁ。

「早く漁から帰ってきてくれよ、そうじゃねぇと」
「ぎぇっ!?」
「うおっ!なんだぁ!?」

まさかのどんぴしゃなんじゃないのこれ!
どちらにせよ男が救助されるのは確定、だから間違ったっていいやと体を180度回転させる。なんだかんだでこの状況に慣れた男がびっくりさせんなやと私のひれに軽いパンチを繰り出すのを無視して、昨日見た船が向かっていただろう方向へと急ぐ。

途中で急ぎ過ぎて男を二回ほど落としてしまったのはまぁ、御愛嬌と言う奴だ。誰にだって間違いはあるのです。

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