シャチ19


そうして仲間たちと共に眠った次の朝。私達は血の匂いで目を覚ました。

「ぎゅう?」
「ぐ・・・」

きょろきょろと寝ぼけ眼であたりを見回し、嗅覚を頼りに匂いの元へ向かって泳ぐ。獲物は随分と出血して・・・いや、違う。これは、何かが大量に死んでいる匂いだ。

「!」

目的地にたどり着き、私は思わず体を硬直させる。海の底に沈んでいたのは沢山の人、人、人。それから肉に群がる鮫や蟹達。ううんそれは重要じゃない、極普通のことだ。でもあまりにも多すぎる。なんでこんなに人が、死んで?

「・・・ぐおっ!!」

人にかじりつく仲間たちを捨て置き、私は陸地に向かって泳ぎ始める。死体は陸の方から流れてきていた。もしや弥三郎に何かあったんじゃないかと、不安にどくどくと心臓が激しく脈を打つ。まだか、まだ陸地に着かないのかと海面に顔を出したその時。私は小さな板きれに掴まって必死に泳いでいる人間を見つけた。大人の男。もしかしたら何か知っているかもしれない。いや知っているに違いない、彼は負傷している。

「ぎぃ!」
「な・・・逆叉っ!?」

ビート板のように木の板をつかっていた男は、目の前の私をみて顔を見事と言ってもいいぐらいに青ざめさせた。一瞬だけためらって、それから板を武器のように構える。

「・・・・俺はっ!こんなとこで死ぬわけにゃいかねぇんだ!」
「・・・・・・」
「兄貴に、兄貴に伝えねぇとっ、・・・・おい逆叉!お前そこをどけ!」

ぎらぎらと燃える瞳。それに反して体はがたがた震えてたし、顔色はまるで紙のようにまっしろ。私が少し動いただけでびくりと体をすくませる。完璧に怯えている。でもすごいな、手に持った板は降ろさない。

「・・・・・・・」

まぁ、最初から食べる気なんてないのだ。男の覚悟を無視して海に潜り、慌てる男を下から押し上げて自分の体に乗せる。そういえばイルカとかもこんなことするらしいな。見た事ないけど。


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