シャチ18


弥三郎と別れてからの生活はとてもつまらないものだった。変わらない日々をただゆっくりと過ごす。彼とさよならをしたのはいつのことだったっけ?良く覚えていない。ただ、冬が何回も来たような気がするから相当な年月が立っているのは間違いないだろう。

「………」

弥三郎は、もう私のことを覚えてはいないに違いない。綺麗な貝殻をなんのきなしに海底から拾い上げて、それを噛み砕く。貝殻の細やかな欠片がぱらぱらと歯の隙間から下に落ちていくのを見やり、溜め息をついて上を見上げる。今日は満月だ。月が丸いとなんだか怪しげな気持ちになる。狼男は決して誇張表現ではなく、生き物は満月の夜は普段より気性が荒くなったり興奮したりするらしい。昔、何処かでそんなことを聞いたことがある。その情報が本当かどうかはさておき、満月というのはとても綺麗なものだなと私はいつもそう思う。幼いときはあの球体がほしくてほしくて仕方がなかった。

「…………」

感傷的な気持ちになって、ぼんやりと海面へ。冷たい夜風を肌に感じながら目を閉じる。弥三郎はどんな姿に成長したかな、元気でやってるかな。目の怪我は治っただろうか。ううん、こんなこと考えたって、しょうがないのだ。

鼻を鳴らした私の耳に、遠くからわいわいと人の騒ぎ声が聞こえて来る。最近人間達が大きな船をつくったらしくって、よく沖合に漁をしにくるのだ。しかしエンジンはついていない。弥三郎が乗っていた舟を大きく立派にしたような木でできた船。本当に今は何時代なんだろうと思いつつ、海の中に潜り込む。酒盛りでもしているのかぎゃっはっはと大きな笑い声、兄貴!兄貴!と誰かに向かって盛大なコール。楽しそうだなと思いながら私は自分の群れの元に向かって泳いでいった。

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