サヨナラ14


「おい、レッド。起きろ」
「あと10分」
「先行くぞ」
「…………起きた!」

ゆさゆさ肩を揺さぶってもまだ惰眠を貪ろうとするレッドに脅しをかける。先ほどまでのだらしなさが嘘のようにぱっちりと目を開けたレッドの頭を一発殴って、奴が着替えている間に俺は荷物を纏める。

「グリーンは今日、どうするの?」
「俺?飯食ったらトキワの森に行く。レッドは?」
「僕は…………昨日はミュウしかデータ集めてないから、もう少しここら辺にいる」
「おっけー」

着替え終わったレッドがもそもそと俺のように荷物を纏め始める。二人で忘れ物がないかどうか見てから、下に降りて食堂へ。トキワのポケモンセンターはあんまり人がいない。まぁ、あれだ。ジムリーダーがお留守だから、必然的に人も来ない。

「トキワのジムリーダー、まだ帰ってきてないんだね」
「…………そうだな」

食堂の柱に貼られた探し人の貼り紙を見て、スプーンをくわえながらレッドがぼそりと呟いた。ジムリーダーの写真は、不思議なことに斜めから撮ったものしか残っていなかったらしくて、それがトキワのジムリーダーの唯一の手掛かり。最近ポケモン協会は、カツラさんのジムをクリアした人間にはポケモンリーグに挑戦できる権利を渡すか否か迷っているらしい。

「はやく戻ってくるといいね」
「ああ……でもそろそろポケモン協会がなにか打開策を出すだろ」
「そうだといいなぁ」

唇を僅かに尖らせて、レッドは八宝菜にスプーンを突っ込んだ。人参を俺のチャーハンの上に乗せてくるのに対抗して、おれもスプーン山盛りのグリンピースをレッドの八宝菜に近づける。

「グリーン……いい加減グリンピース食べられるようになったほうがいい」
「人参が食えないお前に言われたくないんだが」
「…………」
「それで黙るならいうんじゃねぇよ……」

彼の器に更に緑を彩ってやり、おれはチャーハンの上に乗った人参を口に入れた。八宝菜のたれがとろりと絡んだ甘い人参はとても美味しかった。

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