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軍議が終わり、自分に与えられた部屋でぼんやり。兜も武器も外して床に横たわる。久しぶりに外気に触れた髪を衝動のままにぐしゃぐしゃかきみだして、濃い血の匂いに眉を潜めた。いつもなら気にならないはずなのに今は酷く気に障る。

「…………」

はぁ、とため息を吐く。ふわりと埃が舞い上がって夕日の光にきらきら煌めいた。使わなくても、汚れはたまる。掃除をしなくてはと考えながらごろりと体を動かして天井を見上げた。

「…………」

ぐるる、と喉から獣の唸り声が漏れる。気が立って仕方ない。勝てば石田を失うだろう事は、元はと言えば奴の責任だ。俺に八つ当たりするなと言いたい。正直、こんな気持ちになっているのは俺が官兵衛さんを簡単に殺せるからと言うのが第一の理由だ。彼の動きは遅い。俺と当たるなら、風が吹けば一瞬で死ぬ。

だから、俺を官兵衛さんに当てるメリットは全くないのだ。孫市と伊達が言っていたように、俺は猿飛と当たる方が良い。忍びには忍びが一番だ。

「……、」

ぎりぎりと歯を鳴らす。孫市が負ける事はないと思う。しかし無傷とは行かないだろう。糞、苛々するぞ権現め。やはりあんた、ここで殺した方がいいんじゃないかな。なぁ。歴史を新しくしてみよう。

ゆらりと立ち上がってクナイを構える。屋根裏を移動していた敵の足を斬り飛ばして動きを封じる。手も同様だ。声なき声で叫ぶ忍びの胴に足を乗せて踏む。あーあ、良い時にきやがって。

「…………」

あ、どうせなら俺の玩具になってもらおう。いい加減頭きてるから、ちょっぴりストレス発散させてね。

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