34


名残惜しかったけど官兵衛さんと別れて、配置に戻る。木の上で腕組みしながら考え事。俺とじいちゃんは東で官兵衛さんは西、うん。あの時ゃなんにも考えてなかったけど、今思うと結構ショックだわ。ほら人って楽な方に流れたがるでしょ?俺、人殺せなくても東軍よか官兵衛さんといっしょにいたほうが楽しい。

「風魔」

孫市が俺を呼ぶので下に降り立つ。何事かと首を傾げるとあちらに行くぞとジェスチャー。大人しく付いていった先には東軍が勢ぞろいで一枚の地図を囲んでいた。この時代ならではの荒々しい地図。その上に置かれた駒。

「揃ったな」

徳川が顔を上げて部屋の中を見渡した。一つ頷いてこれから軍議を始めると一声。皆が徳川の方を向いた。

「…………」

関ヶ原の戦い。歴史の変わり目。一瞬頭の中に過ったのは、この目の前の狸を自分がもし、もし殺したら?歴史はどう変わるのかと言う子供のような好奇心。それを頭を振って振り払う。こっちが負けたらじいちゃんにまで被害が及ぶ。それは駄目だ。

「………風魔?」
「……、」

なにやら呆けていたようだが、大丈夫か?と徳川が俺に話しかける。あっごめーん、話聞いてなかった。

「…………」
「もう一度言おう。風魔は、黒田殿。孫市は猿飛。政宗は、……」

え、なんですって。もう一度言って頂けませんかね。
さっきと違って奴の声はしっかり聞こえていたけれど、そんな気持ちで地図を見る。俺の駒は、俺の鴉駒は。…………穴熊と対峙。

「…………、」
「ん?どうした風魔」

にこやかに微笑む徳川家康が俺に向かって声をかける。何か不具合でも?と尋ねてくるのに首を振って黙する。うん、不具合だらけだよ権現さん。あんた、知ってただろう。官兵衛さんがあちらに行く前、どこに居たか知ってて俺をあてたんだ。

「……うん」

地図を見ながら徳川が頷く。俺宛の返事だ。わしだって三成を失うのだぞと声を出さずに呟いて彼はもう一度俺を見た。真っ暗な瞳。何が光だ馬鹿野郎。人が恐れ忌み嫌う闇の婆裟羅は、こいつにこそ相応しいに違いない。

prev next

[back]