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返事を出してから3日後。オーキド博士は、たくさんの返事とともに一冊のノートを私に送ってきてくれた。
「……観察用、手帳」
「あらまぁ」
「この子、珍しいポケモンみたいです」
水槽に入ったポケモンをちらりと見て、手紙をじっくりと読む。この子の種族名はヒンバス、生息地はホウエン、タイプは水……。
「ホウエンのポケモンだそうですよ」
「遠いところから来たのねぇ」
「ホウエンなんて、シンオウと同じくらい距離じゃないか」
「一匹で来たんでしょうか」
「その子以外はいなかったわよ」
「うーん……」
捨てられたんですかね、と育て屋夫婦にこっそり呟く。悲しげな顔をした彼らは顔を見合わせて多分そうだろうとため息をついた。コガネにはGTSがあるから、悲しいことにそういったポケモンも多い。
「ナマエちゃん」
「はい?」
「良ければ、この子預かってくれない?」
「ヒンバスをですか?」
「ええ。博士の力にはなりたいけれど、私達じゃ育て屋をやっていくので精一杯でねぇ……」
「どうせなら、ポケモントレーナーのナマエさんに育てて貰ったほうがいいと、わしらは思う」「私は構いませんが……」
でも私、ポケモントレーナーと言ってもバトルやらなんやらはあんまりしないんだけどなぁ……。
腕組みをして私もチェリムと顔を見合わせる。あなたは家族が増えてもいいと思う?と彼女に尋ねると、すこし考え込むそぶりをした後にこくりと頷いてくれた。私自身、別に嫌ではないということで老夫婦に了承の返事をすれば手渡されたモンスターボール。
「それでゲットしてあげなさい」
「ありがとうございます」
ボールを受け取り水槽のそばへ。じっと水槽のそこを眺めていたヒンバスは、私が近づくのをみてさささと岩の陰に隠れようとした。
「待って、ちょっと待って隠れないで」
慌てて声をかけるとぴたりととまった動き。私の顔色を窺うようにしてゆっくりと振り向くのに僅かに媚の色をみて、ああやっぱり捨てられたポケモンなんだなと判断した。野生はこうはならない。それにもし捨てられたとしても彼らの適応力は高いから、すぐに野生に戻ることが多い。だからきっとこの子は卵から生まれたポケモンなんじゃないだろうか。
「あのね、ええと…………」
しかし隠れるのを引きとめたはいいが、いざ家族になってくださいと言おうとしてみるとなかなかこれが口に出しづらい。もごもごと口ごもりながらもこれから一緒に暮らしませんかとモンスターボールを差し出した私をみて、その隣にいるチェリムをみて、ヒンバスはおろおろと視線をさまよわせた。
「あ、チェリムのことは気にしないで。この子も貴方と家族になりたいっていってるのよ」
「りりり!」
きゃっきゃと跳ねるチェリムをみて、ヒンバスは私が持っているモンスターボールに目を向けた。自信なさげな表情をもうひと押しとみて、もう一度一緒に暮らしませんかと言えばヒンバスはゆっくりとうなずいてくれた。
「ありがとう!じゃあこのボールの中にはいって、っきゃあ!」
ずい、と近づけたボールのスイッチを押そうとしたその瞬間に、ヒンバスがこちらにむかって跳ねた。自分からボールの中に入ろうとしたのだろうか。しかしそれは叶わずに水を振りまき床に落ちてびちびちと跳ねるヒンバス。チェリムがあわてて駆け寄ってその体を持ち上げる。
「……あなた、せっかちなのね」
ふふ、と微笑んでチェリムからヒンバスを受け取る。水槽に戻してやるとヒンバスはそれを恥じたように岩場に隠れてしまった。チェリムが心配そうに水槽を覗き込むのを見やりながら、もう少しヒンバスが落ちついたらしっかりモンスターボールに入れてやろうと決意した。
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