佐助成り代わり3


ずきん。死にそうに臓器がいたんで、最悪な事にそれで目が覚めた。

「ぁッ…、……」

熱い腹を押さえて七転八倒。叫びたいほど耐え難い痛みでも、それでも私の喉から声はでない。さっき体で教え込まれた「声を出さない」訓練の記憶が私を縛っているからだ。痛みの記憶とそれを受けた後の行動は直結している。動物でも、何度も鞭で打てば命令にしたがう。こうして痛む内臓よりも師匠から受ける暴力の方が何倍も痛い。だから声が出ない、だってもっと痛いものが来る。

「佐助!大丈夫か、生きてるか!」
「…………、……、か、かすが……?」

げほ、と咳き込んだ瞬間に口の中に広がった血の味に顔をしかめながら頭を声がした方向に向ける。ぼやける視界にきらりと光る金髪。かすがだ、良かった。かすがだ。

「かすが、………なんでここに」
「お前を探しに来たんだ。夕方になっても帰ってこないから、おかしいと思って」
「……ゆうがた」

訓練が終わったのは確か…………昼間の事だったはずだ。太陽もまだ真上に来てない、そんな時間。私はどれだけ寝てたんだろう、よく野性動物に襲われなかったもんだ。

「帰ろう佐助。立てるか?体は平気か?」
「…………ん、ちときつい」
「肩なら貸せる」
「いーよ、足は無事だ」

自分も疲れてるだろうに、こうして他人を気遣えるかすがは将来いいお嫁さんになるんじゃないだろうか。ちょっと気が強いところもあるがそれも及第点。
かすがは可愛い妹のようなものだ。どうせなら忍者として生を終わらせるんじゃなく、幸せになってから安らかに死んでほしい。
すたすたと住処にむかって歩くかすがの後を追って、出来るだけ傷に響かないようゆっくりと進む。

「…………かすが。頭に血がついてる」
「……ああ、いつものことだ」

前を歩く彼女の後頭部には、赤い血がついていた。また石を投げられたのだろうか。私も、かすがも、毛色が人と違うことはそんなに悪いことだろうか。自分の前髪をちらりと見る。どこの遺伝子から現れたのか。私の赤金の髪の毛、海に沈む夕日の色。かすがは新しく上ってきた太陽の色、そう考えれば素敵。忌み子なんて呼ばないでくれ、私も彼女も同じ人間じゃないか。どこからどう見たって、鬼なんかじゃないだろう。

「手当、しよっか。頭の後ろじゃ上手く出来ないだろ」
「頼む……お前の体も、」
「俺のはいい。自分でやるのも訓練だから」
「…………そうか」

訓練。それもあるが、お前に見せたくないんだ。勝気なところがあるかすがにこんな酷い痕のついた体を見せれば、優しい彼女は恐れずに師匠の所にいくだろう。なぜここまでするのかと尋ねに。そしたら、どんな酷いことされるかわからない。

「かすが、今日のご飯は何がいいかな」
「佐助と一緒にたべられるならなんでもいい!」

せりあがってきた胃液を飲み込んで、にこりとかすがに笑いかける。しかめっ面をしていた彼女がそれにつられて笑って、はやく帰ろうとせかすのに頷いて私は震える足を先へと進めた。

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