佐助成り代わり2


それから何時間も声を出さない訓練とは名だけのような拷問まがいの修行を続けられ、とうとう耐えきれずに気絶した所で私はようやく休憩時間を与えられた。とは言っても、これも休憩とは名ばかりであり、悪魔のような師匠が私を滝壺に放り込んで、私がそこから上がってくるまでが休憩時間なのである。今の季節は秋、言うまでもなく水はとても冷たい。これは休憩じゃない。気絶から回復しなかったら待ってるのは死だ。溺れて死ぬか、師匠に殺されるか、それだけの違いだけど。

「……もどり、ました」
「遅い」
「、…………」

下流まで流されないように必死に泳ぎ、へろへろになりながら戻ってきた私に投げ掛けられたのはそんな言葉と、背中への容赦無い蹴り。内臓が揺れるその痛みについ声を漏らしそうになったがさっきまでの訓練の事を思い出してどうにか耐えた。

「…………ふむ。及第点だな」
「…………」
「ありがとうございますぐらい言ったらどうだ?」
「あ、りがとう、ございます」

返事をしなかったらまた蹴られた。しかも内出血で赤黒くなったところをピンポイントに、だ。このドSが。
はぁはぁと息を切らしながらも必死に気を抜けば口から出てきそうになる悲鳴を押し込める。勝手に話せば暴力を振るわれるし、返事をしなくても暴力を振るわれる。理不尽だ、理不尽すぎる。

「今日の訓練はこれで終りだ。一日休め」
「ありがとう、ございます」
「ああ」

今度はちゃんと返事をした。そしたら蹴られなかった。良かった、合ってた。
師匠が落ち葉を踏みしめて去っていくのを姿が見えなくなるまで見送ってから私はその場にどさりと倒れた。もう、限界だ。色々と。腹は痛いし寒いし、体は熱いし、頭痛いし。もう無理、このまま寝る。

どんどん霞んでいく視界に身を任せ、眠りの世界へと落ちていく。ああ、眠ってるときが一番、幸せ。

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