シャチ16


台風は約一日程で去って行った。深海からでもその凄まじい破壊力はよくわかる。ばきばきにへし折られた木や人や家畜。逃げ遅れてずたぼろになった魚や鯨や鮫、同類。それらが次々に深海へ落ちてくる。

「ぎゅ……」

群れの子供達が柔らかくて美味しい肉だ、と人間に食らいつくのをみて複雑な気持ちになりながら牛を喰う。久しぶりに食べたが、やはり私は豚のほうが好きだな。

「ぎゅえ?」
「きゅうっ」

上に行くか、と尋ねてきた群れの雄に頷いて、皆揃って海面に出る。嘘のように晴れた台風一過だ。さんさんと煌めく太陽光がじりじりと肌を焼く。

「きゅっ」

おやおや、子供にはまだきついようだ。海中へ逃げ込んだ子供の後を追って、私達もざぶりと海の中に潜り込んだ。上に上がる途中じゃ目に入らなかった海中の惨状。足がほぼすべてとれた蟹や岩に押し潰された海蛇、そんなものを見つけて私は密かに体を震わせた。台風まじやべぇ。

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