シャチ15
『嵐が来るよ!』
『あっちからあらし、あらし、おっきな風!』
『くるよくるよー!』
ぎゃあーぐぇー、と頭上でカモメ達が空を飛び交い意見を交わし、私にそう教えてくれた。何故か私は他の生き物の声もわかる。でも、残念ながら一方的な意志疎通なので彼らには礼を言う事が出来ない。弥三郎は完璧に私の言葉がわかっているので論外だ。
「ぎゅ……」
嵐か、つまりは台風だな。
ふむ、と考えて群れの皆のところへ行く。嵐が来ると伝えれば、皆深海の方へ避難すると決めたようだ。確かに海中で飛ばされてきた木やごみに体を傷つけられるのは勘弁願いたい。
「くぁーっ!」
「ぎゅうう!」
途中で捕まえたイルカで腹を満たしつつ、寄ってきた鮫を追い払う。やつらはアンモニア臭くてあんまり美味いもんじゃない。
「きゅおっ!」
圧に少しだけ体を押されながらも、被害がこないぐらいには深いところまで避難していく。子供にはきついかも知れないが、これが一番いい。海の中で血を流すと色んなものが寄ってきて、肉を狙われる。水の中じゃ匂いはよくひろがるから。
「…………」
深い海の底で目を瞑りながら、弥三郎は大丈夫だろうかと考える。台風の被害を受けて、困ってないといいのだけれど。
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