シャチ13


『いねぇのか?………まぁいいや、弥三郎からの伝言なんだがよう!暫くお前には会えねぇってよー!』
「ぎゃおっ!?」
「んぎゃっ!逆叉!」

なんだって!?
それを聞いて、迷いは消えた。海中から勢いよく男の足元から飛び出た私に、男が驚いてすっころぶ。そして目をかっぴらいて私を凝視して頭の斑模様を確認し、安堵のため息をついた。ちゃんと名前と由来を知っているらしい。

「ったくよ、驚かせやがって。お前が「まだら」か」
「ぎぃ」
「……あのな、まだら。弥三郎はいま怪我してんだ」

左目に傷を負っちまってなぁ、と男が自分の左目をとんとんと叩く。だから遊べない、だそうだ。どうしたんだろう、目だなんて。彼の事が心配で、きゅいきゅいと鳴きながら右往左往する私に男が笑う。

「逆叉が人に懐くなんてよぅ。前代未聞だぜ」
「ぎゅあー」
「おっ、返事した。そうだまだら、覚えといてくれよ。俺は長曽我部国親ってんだ、弥三郎の父ちゃんな」
「ぎぃっ!」
「あっはっは」

めんこいなぁこいつ!と国親が私の頭を撫でる。いつもあいつと遊んでくれてありがとうなぁと呟かれて、彼を見上げると不思議な顔をしていた。悲しいような嬉しいような、そんな表情。

「弥三郎はいつここにこれるか分からねぇ、少なくとも一月はかかるだろうよ」
「…………」
「……だが、あまり期待しない方がいいぜ」

期待しない方がいい?相当危ない怪我と言うことだろうか。弥三郎は、死ぬかもしれないのだろうか。だから彼が来た。

「あいつも、ありがとうって言ってた」

囁くような声に小さく鳴き声で答えると、国親は2、3度私の頭を叩いて去って行った。

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