シャチ12
ああそうそう、弥三郎は男だった。将来イケメンくんになるんだろうなー、なんて考えながらこの前一緒に遊んだ3日後に岩場で一人、弥三郎を待つ。しかし、来ない。いくら待ってもこない。
「……きゅおぉ?」
具合でも悪いのだろうか。心配だなぁ。
うろうろと岩場の隙間を泳ぎ回って不安を表す。あまりの心細さにきゅん、と鳴いたその時。私の耳に、ざくざくと砂を踏み砕く人の足音が飛び込んできた。弥三郎とは違う重い音。それに慌てて海中に深く身を沈ませて隠れる。
『おかしいなぁ…………いねぇぞ』
大人の男だ。いつも弥三郎が立っている所で立ち止まり、きょろきょろと何かを探している。屈みこんだり岩場の隙間を覗き込んだり、不思議な事をする人間だな。
『おーい!まだらーっ!』
「ぎゅっ!?」
なんで私の名前。
海中で目を見開いている間にも、男は何回か私の名前を叫び続ける。
『まーだーらー!』
どうしよう、行けばいいのか無視するべきなのか。男が立っている岩場の下で私はうろうろと迷った。罠だったらやだしなぁ。
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