サヨナラ12


「……ありがとう」
「ああ」

す、と目を開けたレッドが俺から離れる。もうその瞳は濁っちゃいなかった。

「グリーンはこのあと、どうするの?」
「……トキワの森に」

行こうかと考えていたんだが……。
そこで言葉を途切れさせて空を見上げる。見事な夕焼け空だ、今日は星がよく見えるに違いない。とにかく、この様子じゃトキワの森を途中まで進んだ所で夜になってしまうだろう。

「今日は、トキワのポケモンセンターに泊まろうと思ってる」
「ほんと?僕もそう」
「まぁこの時刻じゃなぁ……」

俺達はまだ弱い、夜の闇に紛れて忍び寄ってくるゴーストタイプや夜行性のポケモンを完璧に防ぐことなんて出来やしない。アニメやゲームと違って、この世界じゃポケモンは平気で人の命を奪う。そうでなかったら草むらにはいるだけで注意を促されたりはしない、どんな小さなポケモンにも油断は禁物なのである。

「じゃあさ、グリーン。今日は僕と一緒に泊まろうよ」
「…………うーん」

トキワシティへの道を、レッドと共に歩きながら唸る。その言葉にも貞操の危機を感じてしまうのは俺が過敏すぎなのだろうか。それとも前世の姉の本棚から取って読んでしまった腐った本のシチュエーションに激似だからだろうか。多分、両方だな。

「わかった」
「いいの?」
「……明日からは、別行動だし」
「…………そだね」

へへ、と笑ったレッドが俺の服の袖を軽く掴んで早く行こうと促すのに従って、俺は駆け出した。もっと幼かった時はよくこうやって二人でおいかけっこしたなぁ、なんて思い出しながらポケセンに向かって全速力。扉を蹴破るようにして開けた俺達にはジョーイさんの雷が落ちた。そうしてあの人は怒らせると母より怖いってことを、俺らは今日初めて知ったのだった。

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