佐助成り代わり24











鼻と鼻がふれあいそうになるまで近くに顔を寄せられて、それでも私は逃げられやしなかった。ずるり、ぞるりと濡れた音を立てて奥から何かが外に押し寄せる。いや、引っ張られている。私が師匠に噛みつかれて外に引きずり出される。
べし、とほほを叩かれて、そこで初めて自分が息を止めていたことを知った。

「食わないんだったら仕方がない」
「………なに、を」
「なんだ、喋れるじゃねぇか」

きゅう。師匠の目が細まって、かれの後ろにぶわりと闇が押し寄せる。まだ昼間で、影や闇といったものは日の光にあたってできるような弱いものしか存在していないのに、師匠の後ろには確かに質量をもった闇が存在していた。肌に這いよる冷たさにこくり、と息を飲む。

「抵抗するんじゃないぞ」
「は、……あ゛っ!?」

その言葉とともに、ぐりぐりと何かを自分にねじ込まれているような違和感が体を襲う。物理じゃなくて、精神的に、師匠の何かが中に入ってきているのがわかる。自分の闇が侵略される気配、じわじわと広がっていくそれにおびえて暴れ、恥も外聞もなく泣き叫んだ………所まではしっかり覚えているのだけれど、気がついたら布団で寝てた。ここ最近、どうも気を失うことが多い気がする。気絶癖でもついているのだろうか。

「………」

首を動かして辺りを見回すと師匠が私に背を向けて寝ていた。なんとなく起き上がろうとしたら、珍しく眠さの残る声で不機嫌そうにまだ寝ていろと言われたので、大人しく布団の中に潜り込む。布団の中でまだ不快感の残る胃と下腹部に手を伸ばして、自分の性別の証である性器を軽くさわる。それから女だったら乳房と子宮が存在する部分に軽く手を当てて、そこが何の柔らかみも膨らみも持っていないことに少し安心した。男に胸も子宮もない。その当たり前の事が、今の私には重要な事だった。

「、………」

母の胎内で眠る赤子のようにくるりと体を丸めて眠る。だんだんぼんやりしていく頭のなかに、ご飯は食べてないのにどこか満足したような感じが奥に残っていて、師匠が分けてくれたんだなぁと根拠もなくふやけた脳みそでそう思った。

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