佐助成り代わり23


ししょーも闇もち







「お前はもう、疲れてしまったのか?」

無理矢理食べさせられては吐き、飲んでは吐きを繰り返して早3日。根気強く食べさせようとしてくる師匠には申し訳ないんだけど今は無理、食べられない。口の不快感がすごくて、そこを物が通るたびに吐きだしたくなっちゃうんだ。

「あれほど死ぬのを怖がっていたのに、もう諦めるのか」
「……………」

のろのろと師匠の方をみる。片手に食器を持って少し難しげな顔をした師匠が、じろじろと私を観察するその目線を避けるように顔をそむけると、ぐいを顎をつかまれて戻された。

「俺はお前の好きなようにさせる事が出来ない。お前はバサラを発現させてしまったし、傷が治ったらまた真田の元に戻ることになる。心をそのままに、傷だけを治してあの武家の元に戻ればまた同じような事が待ち受けているぞ。嫡男を狙っているのはなにも正室だけじゃあない」
「………」
「いや、その前にお前は死ぬだろうな。それでいいのか」

何がお前を縛っている?そう聞かれてわななく唇。そんなこと、あんなこと答えられるものか。確かに私は心を一度、外に出さないように深く深く押し込めた。きゅうと圧迫して、心と体を分離させて。でも中にあるのは相も変わらず私自身なのだ、感情が外に出なくなっても中にはちゃんと私がいる。やだよ、思い出させないで。

「言っておくが俺はな、お前があの男に何をされたか、その全てを知っている」
「……」
「あの下劣な男から、情報を取り出したのは俺だ。お前にも見せてやれば少しはすっきりしたかもしれないな。いい歳をして、指をつぶしただけで実によく鳴いたよ」

あんな生き物でも血は鮮やかに赤い、歌うようにそう呟いて、無表情のままの師匠の顔が近づいてくる。感情の機敏を感じさせない空のような黒い目が私を覗く。その瞳の奥で、私と同じ何かが濡れた音を立ててうごめいたような気がした。

prev next

[back]