佐助成り代わり15


「佐助、参りました」
「おお、入れ入れ!」
「……失礼します」

昌幸様の部屋の前で、来たことを告げると昌幸様の上機嫌な声が私を呼んだ。あっはっはと忍長の笑い声が聞こえる……嫌な予感がするな。
恐る恐る襖を空けて中に入る。とたんにむわ、と押し寄せた酒の香りに鼻が歪みそうになった。

「来た来た!主役が来たぞ、なぁ士郎!」
「そうですねぇ昌幸様!あっはっは!いやぁ目出度い目出度い!」

……こいつら、酔ってやがる。
何が目出度くて主役なのかさっぱりわからないが、とりあえず罰せられることはなさそうだと息をつく。

「いやはやまさかな!出来るやつだと思っていたらバサラを発現させるとはな!俺はよいものを買ったぞぉ士郎!」
「そうですなぁ!真田忍隊も安泰ですわ!」
「…………」

ばさらってなんだよとか主従関係がばんばん背中叩き合って酒飲んでんじゃねーよなんて思わなくもない。人のことを、買ったなんて言わないでほしい。でも素直に羨ましいと思った。私も誰かと、あんな関係になりたいなと思った。

それが表情に出ていたのだろうか。忍長と肩をくんでげらげら笑っていた昌幸様がふ、と真顔になって私を手招きした。ちょっとびくつきながらも、昌幸様の手が届く位置にまで近寄ると、よくやったの言葉とともに頭をぐりぐりと撫でられる。堅くて暖かい武人の手だ。……まるで前世の父のような。

「、…………」
「あの状況で、よく俺の息子を守ってくれた。……誉めて遣わす」
「あ、りがたき、幸せ」
「うむ、これからも弁丸をよろしく頼む。あいつはよくお前になついておってなぁ、倒れたお前を大層心配していた。このあと会いに行くと良い」

はい、そう答えた私の声は震えてはいなかっただろうか。14歳にもなって子供のように頭を撫でられて、でもそれは全く不快な事じゃなかった。思わず下を向いて押し黙った私の肩を頭を、昌幸様と忍長がぽんぽんと叩く。
涙は出なかった。ただ、どうしようもなく嬉しくて、悲しかった。

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