佐助成り代わり12


弁丸様の元に戻って数十分後。ぐるり、回る視界と制御がきかずに倒れる体。今頃になって毒が効いてきた。今回はなんだ?筋弛緩系かな?さっき厠に行っておいてよかった。

「…………ぅ」
「佐助?………先ほどの毒か」

……こりゃキツイ。才蔵の声が脳みそのなかを走って行く。新幹線とジェットコースターの間の子だ。鼻から鼻血が出てきた気がする、うぁー胃が、気持ち悪い。
げぼ、と自分でもよくわからないなにかを畳に吐く前に、才蔵が俺を抱えて外に連れていく。遠慮なく庭に胃液っぽい変なのを吐いて、体に力が入らないから鼻水や涎を垂れ流して。涙で霞む視界でぼんやり介護してくれる才蔵の事を見る。ご丁寧に私の顔を汚す液体を拭ってくれて、水で口を濯がせてくれて、わざわざ中に運んで寝せてくれる。うん、才蔵いてくれて助かった。前はこれを根性で耐えてたから、……でもある意味弱くなっちゃったんだな。駄目だなそれじゃ、守れない。

「…………っ、」
「寝ていろ佐助!」
「………………だめ、べんまる、様を、」

危険だ。と弛緩して動かない体でずりずり床を這いずりながら、自分の暗器を手にとって、無理矢理体を起こす。才蔵、気付け、上に二人だ!

「っ!」

気付かれたのに気付いたそいつらがしゅ、と下に降りてくる前にクナイを投げて片方の奴の手を封じる。すこし目を見開いた才蔵が、それでも咄嗟にもう一人を引き受けたのを見て、片手が使えなくなった忍者と対峙する。

「…………」

睨み合ってまずは一閃、忍びの喉元でがきんと忍刀で止められたクナイを見て笑う。ははぁ、弱った私のスピードでぎりぎりってことは万全なら瞬殺だな。うん、お方様の放つ忍びも段々質が悪くなってきてる。そろそろ限界かな?

笑った私を見て唸った忍びが、そのままぎゃりぎゃりと音を立てて忍刀を私のクナイから逸らす。そのクナイを、私のクナイが刺さった手で握られて封じられる。使えない左手を犠牲にして私を討とうって寸法かもしれないけど、こっちにはまだまだ武器があるんだよねぇ……。

「ぐっ……!」

案の定私の首筋を狙ってきた忍びのがら空きの喉に、千本を突き刺してつぼを突き、動きを止める。からんと武器を落として崩れ落ちた忍びを足蹴にして、丁度相手の心臓を貫いて止めをさした才蔵の元に行く。返り血を浴びて頬にうまい具合に化粧をしたようになっていたのが、彼の銀髪によく似合っているなと思った。

「ずきん、とれてるよさいぞー」

まだ体が回復してないから、子供みたいに舌ったらずになっちゃうのがちょっと嫌だけど、まぁ恥ってほどでもないしそのまま喋る。刃物で引っ掛けられて真っ二つにされたんだと仏頂面で機嫌が悪い彼に近づこうとしたその瞬間に私は、弁丸様の部屋に近付く敵の気配を察知した。なんてこった、失態だ。

「さいぞっ、はんたいからべんまるさまにふたり」
「何!」

しゅ、と瞬身の術で弁丸様の部屋に向かって移動した才蔵の後を追って走る。弁丸様の部屋にたどり着いた丁度その時に、私は彼に向かって振りかぶられる重い刃物を直視した。

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