電気羊9


本屋に行ったり、僕と同じ子達が売ってるボーカロイド専門店に行ったりしてる間に、辺りはすっかり真っ暗になっていた。元いた場所に帰ろうかなと思ったけど、テレビでやっている「僕」が盗まれたニュースではまだ沢山の青い人がマスターのいるボーカロイド専門店に出入りしてるみたいだったので、マスターに言われた「今日は帰ってくるな」と言う命令に従うことにして僕は路地裏に足を向けた。そこで一晩過ごそうと思ったのだ。 ホテルを借りようにも、僕は借り方がわからないし、それにお金をもらってくるのを忘れた。だから必然的に、こういった所で夜を空かすことになる。まぁ体は反応するけど僕自身はあまり寒いとは思わない。だから約7時間ほど外でぼんやりしてても、大丈夫だ。そしたらマスターの元へ戻ろう。

はぁ、と白い息を吐いて、それがふわりと空気に溶けていくのを見送る。もし僕があそこでマスターに何も言わなかったら、もしマスターがあそこで僕に何も言わなかったら、今頃僕はここにはいなかった。溶けてた?いやばらばらになってた?まぁ、スクラップになってたのは間違いないんだろうな。そして、こんな体験も出来なかった。

「…………」
煌めく灯りが邪魔をして、町の中じゃ星は見えない。それでも、マスター達がよく歌にするあの惑星たちを、一目見ようと路地裏で一人。空に向けてしきりに目を凝らす。

「…………あ、」

ちかちか、その甲斐あって明るく点滅しながら光る星を、僕は二つ見つけた。赤と緑、動く星。ぱちぱちと等間隔で輝いて、夜の空を西に向かって渡ってる。あれをマスターへのお土産話にしよう。

「にゃぁーお」
「おいでおいで」

すり、と僕の足に体を擦り付けてきた野良猫を抱きあげて、地べたにぺたりとこしを下ろす。ぐるぐると地響きのような唸りをあげる喉をくすぐってやると、小さな猫はとても気持ち良さそうに目を細めてくれた。僕の胸もとに収まって、ここが今日の寝床だといわんばかりにそこで体を丸める。僕も、マスター達がいつも夜にベッドの中でそうするように、そっと目蓋を閉じた。眠れない事はわかってる、でも、少し真似してみたかったんだ。

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