電気羊5


それから僕は幾人かのマスターの元を転々とした。不思議な事に、ボーカロイド専門店のマスターは僕を破棄したりしなかった。でも、そこに戻される前のマスター、彼はとても酷くて。違法パッチをミクとルカに当てていた。違法パッチって言うのはその、……僕らの体は全てマスター達のような作りになっていて、唾液も出るし、涙も出るし、エネルギーがなくなればお腹もそれなりに空く。排泄はしないけど、同じようなものはちゃんとついてる。だから使わないけど性器だってある。僕らを作り出した人はとことんリアリティを求めたらしい。求めすぎて、違法パッチなんてものが出ちゃったけどね。ちょっと僕の口からはあまり言いたくないんだけど、……それはつまり、僕らと性交できるような、そんなアイテムだ。普段はセキュリティがかかってるところを壊してデータを書き換える、下手をすると僕らが壊れてしまうかもしれない恐ろしいアイテム。それを前のマスターは彼女たちに使っていた。

僕も、2つパッチを入れられた。『快』と『痛』の2つのパッチ。入れたわりにはなにもされなかったけどね。マスターはそれを忘れたのか故意になのか、パッチを回収しないまま僕を店に返却した。いまもその2つの違法パッチは僕の頭の中で眠っている。これを無くすためにはそのマスターが設定したパスワードが必要で、それがわからないまま取りだすには僕を消去しなきゃいけない。電子頭脳をまっさらにしないといけない。だから僕はそれを黙秘する。ごめんなさいマスター、でも僕は消えたくない。

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