3 「おまえは知っとかなきゃいけない」 *土方のカミングアウト続き 「正気だろうな」 じろり、と上司の目が俺を見た。 温度のない表情。いつも豪快に暖かく笑っている人の、温度をなくした顔。 ひとつ、息を吸い込んだ。 「あたりめーだ」 俺の真意はもう理解してくれたはずだ。この人なら。 ただ、近藤さんの良識からはみ出た行動が飲み込めないのだ。 だからって俺は、引くつもりもない。尊敬はしてるが、俺は近藤さんじゃないし近藤さんと同じ思考をするわけじゃない。 「……もう一回聞くぞ。坂田から救出したとき、ていうかトシにとっては坂田と別れわかれになった日になんのか?」 「……おー、」 「俺たちが行くまで、おまえらなにしてた?」 「……セックス」 目を逸らしたら斬られると思った。それくらい、迫力に押された。 「そうか……強要されたんじゃなくて?」 「合意だよ。坂田に電話鳴ってるぞって注意されて、やっと出たんだから」 「え? まさに、その……最中だったとか……?」 「後だけど」 「よかったー! や、あんまり良くないけど! ……じゃああん時、健康診断を拒否してたのは、」 「ヤったばっかりだったし。坂田の体液とか出てきたら、気まずいだろいろいろと」 「……」 「聞きたくねえ話だろうよ。だが言わなきゃアンタは納得しない。違うか」 「……聞いても納得したくないけどな」 「アンタの期待に添えなくて申し訳ないとは思ってる。俺だって自分に驚いてるくらいだ。でも、」 これが本当のこと。 現実に起こったできごと。 「坂田の監視カメラ、極秘にしといたよ。それはいいよな」 近藤さんは、ふう、とひと息ついた。 「わかったよ。本気なんだな……オメーはいっつも一筋だもんな」 「……?」 「ミツバさんが最初で最後かと思ってたし、まあ、俺の願望だったのかもしれないな。トシにまた好きな人ができて、よかったんだろうな」 「……」 「坂田の話だけど」 受け入れ、られたのか。 近藤さんの目はもう、冷たくない。暖かくもないけれど、しょうがないなと笑ってみせている。 「あいつが殺ったのはほぼ確定。目撃者さえいなかったら完全犯罪になるとこだった。でも、いたんだ。証言に基づいて調査し直したら、証拠が出た」 「それじゃ偽の証拠なんか作り放題じゃねえか!!」 「偽じゃないのがひとつ出た。見廻組が考えもしなかった証拠を坂田と照合したら、一致した」 「なにを……」 「その前に聞いときたいんだけどトシ、あの爺さんとなんかあったか?」 そこまでバレたのか。 あわよくば隠したいなんてケチくさい了見の狭さが恥ずかしかった。 これで坂田が救えるなら、 「あったよ……しばらく通ってた」 「誰が?」 「俺が。抱いてくれって頼んで」 「なんで!?」 「坂田に捨てられたから。いや、そう思ったから」 「……おめーなァ……、ったく! 相談してくれりゃよかったのに!」 「うん」 「で? 坂田は?」 「爺さんが俺を面倒がり始めたんで、行くの止めた。そのあと街で男漁り……」 「そこはもう聞いた! で、坂田は? 爺さんの件で、なんて?」 「特に爺についてなんか言ったことはないと思う……まとめて腹立てたってことは聞いたけど」 「あー、俺ちょっと万事屋に同情するわ。トシ鈍感すぎ」 「は?」 「わかったよ。万事屋があんな殺り方すんのが謎だったんだ。野郎、殺るなら一気にやるだろ? あんな陰湿なやり方するとは思えなくてさ。そこだけ謎だったわけ。俺ん中では」 「……」 「あいつ、トシのこと大好きなんだな。ひねくれてっからよくわかんなかったけど」 「……」 「証拠が偽造じゃないって話だけど。ショックかもしんないけど、おまえは知っとかなきゃいけない」 「……」 「万事屋が、あの爺さんをどうやって殺したか、聞いたか」 「……総悟に聞いた」 「爺さんの尻に体液が残っててな。分析した結果、真選組で拘留中の坂田銀時と一致したよ」 「……っ!? まさか、あの、独房んときの……!?」 「いやまさか。トシが絡んでるとは知られたくないから、見廻組には坂田の髪の毛渡したんだよ。トシには触ってないから」 おまえらお互いが大好きなんだな。 近藤さんはそう言って穏やかに笑ってみせた。 「それでも、許されないことはある。万事屋はそれをやっちまった」 「……けど、」 「あいつ、やっぱり頭ん中もフワフワしてんだな。んなことしたら、困るのトシだってわかんねーのかな」 「……!」 「そこまで坂田を追い込んだトシも悪い。どうせ惚れられてるのに気がつかなかったとかだろ」 「……」 「なんで好きなら好きって言わないかなぁ。俺にはわかんねーよ。けど、トシ」 「……」 「俺は、真選組としてやるべきことをやった。おめーに詫びることもしてないと思ってる。あとは、おめーがやれ」 「え、」 「それを言いにきたんじゃねーの? 俺に文句言いにきただけ? トシらしくもない」 「……そりゃ、そうだけど」 「裏から手ェ回すのは副長の得意技だろ。俺は見てねえから、サクッと坂田引っ張りだせ。高杉が絡んでたら、報告すること。以上」 章一覧へ TOPへ |