4 「大丈夫だ。なにがあったって俺は」 目が覚めたとき、真っ先に聞こえたのはすすり泣く声だった。 それで全部思い出した。 「ぎんとき……?」 「ひじかた!?」 坂田は俺の傍で、膝小僧を抱えて蹲っていた。 「ひじかたッ」 涙と洟に塗れた顔が半分上がった。 「死んだとでも思ったか」 「そりゃ……生きてンのはわかってっけど」 「なら、顔洗ってこい。ひでえ顔だぞ」 「……おー、」 「待て」 「ッ、なんだよ!?」 「謝れ」 「は?」 「悪いことしたら謝んだぞ。母ちゃんに教わんなかったか」 「……はっ?」 「そうじゃねーと、その先が続かねえんだぞ」 「……」 「続けたくなければ、いっけど」 「俺、母ちゃん知らねーし」 拗ねた顔をまた膝に埋めて、洟をひとつ、啜る。 「親の顔、知らねえのか」 「……うん、」 「俺もだ」 「え、」 「母親の顔はぼんやり覚えてるけどな。親父はさっぱりだ……でも、挨拶は教わったぞ」 銀色の綿毛がもぞもぞ動いて、泣き腫らした顔が力なく上がってきた。 「ふふっ、俺も教わったよ。滅多にしなかったけど」 「なんで」 「いつか、言おうと思ってたんだ……その前に、死んじまったよ」 「さかた、」 自分の手足が動くのを確かめる。 「坂田」 「おい、寝てろって! さっきまで完全に落ちてたんだぞ!?」 「もう動ける」 俺から近寄ったことは、なかったんじゃないかと思いついた。 俺はいつも坂田の言いなりで、それで俺は良かったけどこいつは不安だったのかもしれない。 「死ななかっただろ」 「……そ、だな」 「嫌になったか?」 「ハッ……なんで俺が、」 「よかった。じゃあ、謝れ」 「……?」 「そうやって、ずっと続くんだ。人との関わりってのは」 「……」 「許されなかったとしても、謝んなきゃいけねえことが、あんだ」 「……」 「俺は、とうとう言えなかった……後悔、してる」 「……そうなのか?」 「俺はいい。こんなんでテメーを嫌ったりしねえ。だが、おまえが苦しむ。おまえは自分を責める」 「……」 「だから、謝れ」 銀時。 殺されたって俺はお前が好きだ。 おまえにそれを伝えるには、言葉を重ねなきゃいけないと思う。 こんなにすれ違って、言ったつもりのことが伝わっていなくて、互いに愛されている自信のない俺たちだから。 「土方、やっぱり俺ァ……大事にできねえ」 「なにを」 「オメーさ。今度は、大事に、大事にしようって思ったのに……」 「しようと思ってくれたんだろ」 「なのによォ、気がついたら力入り過ぎてて……ははっ、神楽より始末悪ィな」 「ちょっと俺が弱ってただけだ」 「嘘つけ」 「次、気をつける。だからテメーも一回や二回で諦めんな」 「……」 「大丈夫だ。何があったって俺は」 初めて自分から腕を絡める坂田の首は、暖かい陽向の匂いがした。 「おまえが好きだ。いつでも、どこでも」 「……ごめ、なさッ」 坂田は俺の肩に顔を埋めて、子どものように声を上げて泣いた。 章一覧へ TOPへ |