「大丈夫だ。なにがあったって俺は」





 目が覚めたとき、真っ先に聞こえたのはすすり泣く声だった。

 それで全部思い出した。

「ぎんとき……?」
「ひじかた!?」

 坂田は俺の傍で、膝小僧を抱えて蹲っていた。

「ひじかたッ」

 涙と洟に塗れた顔が半分上がった。

「死んだとでも思ったか」
「そりゃ……生きてンのはわかってっけど」
「なら、顔洗ってこい。ひでえ顔だぞ」
「……おー、」
「待て」
「ッ、なんだよ!?」


「謝れ」


「は?」
「悪いことしたら謝んだぞ。母ちゃんに教わんなかったか」
「……はっ?」
「そうじゃねーと、その先が続かねえんだぞ」
「……」
「続けたくなければ、いっけど」
「俺、母ちゃん知らねーし」

 拗ねた顔をまた膝に埋めて、洟をひとつ、啜る。

「親の顔、知らねえのか」
「……うん、」
「俺もだ」
「え、」

「母親の顔はぼんやり覚えてるけどな。親父はさっぱりだ……でも、挨拶は教わったぞ」


 銀色の綿毛がもぞもぞ動いて、泣き腫らした顔が力なく上がってきた。

「ふふっ、俺も教わったよ。滅多にしなかったけど」
「なんで」
「いつか、言おうと思ってたんだ……その前に、死んじまったよ」

「さかた、」

 自分の手足が動くのを確かめる。

「坂田」
「おい、寝てろって! さっきまで完全に落ちてたんだぞ!?」
「もう動ける」

 俺から近寄ったことは、なかったんじゃないかと思いついた。
 俺はいつも坂田の言いなりで、それで俺は良かったけどこいつは不安だったのかもしれない。

「死ななかっただろ」
「……そ、だな」
「嫌になったか?」
「ハッ……なんで俺が、」
「よかった。じゃあ、謝れ」
「……?」
「そうやって、ずっと続くんだ。人との関わりってのは」
「……」
「許されなかったとしても、謝んなきゃいけねえことが、あんだ」
「……」
「俺は、とうとう言えなかった……後悔、してる」
「……そうなのか?」
「俺はいい。こんなんでテメーを嫌ったりしねえ。だが、おまえが苦しむ。おまえは自分を責める」
「……」
「だから、謝れ」


 銀時。
 殺されたって俺はお前が好きだ。
 おまえにそれを伝えるには、言葉を重ねなきゃいけないと思う。
 こんなにすれ違って、言ったつもりのことが伝わっていなくて、互いに愛されている自信のない俺たちだから。

「土方、やっぱり俺ァ……大事にできねえ」
「なにを」
「オメーさ。今度は、大事に、大事にしようって思ったのに……」
「しようと思ってくれたんだろ」
「なのによォ、気がついたら力入り過ぎてて……ははっ、神楽より始末悪ィな」
「ちょっと俺が弱ってただけだ」
「嘘つけ」
「次、気をつける。だからテメーも一回や二回で諦めんな」
「……」

「大丈夫だ。何があったって俺は」

 初めて自分から腕を絡める坂田の首は、暖かい陽向の匂いがした。

「おまえが好きだ。いつでも、どこでも」


「……ごめ、なさッ」


 坂田は俺の肩に顔を埋めて、子どものように声を上げて泣いた。





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