「この男にとっては、初めての体験なのか」
未遂行為あり。





 するすると、着物が肩を滑り落ちた。

 坂田の着物がごわごわする。
 でもそれを言い出すのは恥ずかしくて、したいようにさせておくと、

「どうした?」
「え……、」
「なに? どこ触ってほしい?」

 胸に唇を寄せて、囁いた。

「ちが……んっ、」
「ここ? 違った?」
「ちがわ……な、あんっ」
「よかった」

 ほっと吐いた息が胸にかかり、それにも反応してしまう。

「あ、それ……、さかた、」
「ん? 痛い?」
「んんっ、もっとほし……」
「いいの?」

 なんだか勝手が違う。
 もっと酷くしてくれて、いいのに。
 前みたいに。
 でも、そんなこと言えない、

「あーーッ!! いっ、」
「痛かった!? ごめんっ」
「あッ、やめんなぁ……」
「おい、我慢すんな」
「ちがう、してないッ」
「……気持ちイイか?」

 そんなこと、言えない。
 坂田の服を掴んで見せるくらいしか。

「なんだ? ひじかた」

 坂田が、優しく問いかける。

「言ってみな。いろいろ手はあんだから心配すんな」
「ぅ……、」
「ん?」
「これ……ッ」

 同じ動作しかできない。
 他にどうすればいいんだ、

「それは、ダメだ」

 やっとわかったらしい坂田はゆるゆると首を振った。

「肌なんか合わせたら、俺ァ」
「いいッ、いいからこれっ、」
「〜〜〜っ、ホントおまえ、俺のこと好きな」
「すき、だから……し、しんぱい、すんな」

 なに言ってんだ、
 わけわかんねえ、早く否定しないと、

「おまえよりっ、もっと前、から……すきだっ、た」
「ひじかた……」
「だからッ、すきに、していい」

 坂田の体が伸し掛ってきて、息ができないほど抱き締められて、

「なんだこれ」

 坂田は震えている。

「なんで……!? 何されっかわかんねーぞ? 死ぬかもしんねーのにっ、」
「……ぅ、」
「そんでもいいとか、おまえどんだけ……ッ」

 うっすらと考えた。
 何をしてもいい、と、
 どれほどの失敗や、罪を重ねても、
 決して心が離れることはないと、

 誰もこの男に教えてやらなかったのか。

 酷くすることを許されるのは、この男にとっては、初めての体験なのか。

「さか……」

 苦しいよ。
 俺はおまえがすきだ、
 ずっと、
 なにがあっても、

「ぎん……き、」


 くるしい。
 いきが、とまる、


 まあ、いいか
 ぎんとき、おまえにだきしめられてしぬなら、


「土方ッ、おい!? ひじかた!!」


 ぎんとき。
 しんぱいするな、おれはおまえが、すきだ


「とおしろォォォォォ!!」





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