変態とは何か


 ごく普通のストーリーものを選んだつもりだった。ここは便宜上男女モノだ。種類が豊富だからね。今回は内容を厳選しないといけないし。
 本当はレンタルビデオ屋に一緒に行って、土方の嗜好と相談しながら選びたかったんだけど断固拒否された。十八禁コーナーなんて変態の行くところだと信じて疑わないらしい。こんなオボコが副長で大丈夫なの真選組。
 エロコーナーで卒倒されても困るんで、俺一人で選んで借りてきて、ラブホで鑑賞会だ。万事屋で鑑賞会やる勇気がない。土方がやたらとオモチャ持ち込んできた時期だって冷や汗モンだったからね。
 土方ときたら、オモチャは平気でその辺に放り出しておくくせに動画になるとそわそわキョロキョロ、落ち着かないにもほどがある。ベッドに腰掛けているのに腰が浮いたり落ちたり、やたら口許触るし目は泳ぐし。
 画面の中では男が女の中に指を入れて、二人はキスしながら抱き合ってる。土方はもう真っ直ぐには見ていない。横目で画面を見ながら、主に俺の顔をガン見してる。

「なーに。エロビデオ見てる銀さん見て興奮してんの」
「はっ!? ななななに言ってんだ違えし。違えからな!?」
「ほんとかな」

 軽く笑ってやって冗談ぽく土方の股間に手を伸ばしたら、ひゃん!?みたいなヘンな声出して土方は飛び上がった。固くなった股間のブツは、俺が触れたせいであからさまに硬度を増す。

「興奮してんじゃん、ウソつき」
「ちが……これは、」
「ビデオ見てこんななってんの? それとも俺?」
「ビデオの訳ねえだろっヘンタイ!」
「?」
「たっ、他人がヤってるとこ見て興奮するほど変態じゃねえし!」
「え?」
「テメーこそ普通の借りてくるって言ったくせに! ウソつき!」
「??」
「もう消していいか?」
「え? ああ、うん。いいけど」

 なんだか妙に色めいた土方くんは、目を伏せながらリモコンを操作した。画面は暗転し、部屋の中は静寂に包まれる。
 急に、土方が俺の胸に飛び込むように抱きついてきた。肩に顔を埋めて、ぎゅっとしがみついている。どうした、と尋ねても首を振るばかりで答えはない。

「お前は、ああいうのがいいのか」

 ずいぶん経ってやっと土方は口を開いた。

「うん……そうだね。できればあれに近いのがいいかな、俺は」
「もっと、普通のヤり方に、寄せる気はねえんだな?」
「普通? ごく普通だと思うけど……縛ったりオモチャ突っ込んだりは、あんまり」
「なんてドSなヤツだ」
「そこだ」

 こないだもそんなようなコト言ってたっけ。おかしい。ドSの定義が。
 お前んとこサド王子いるよね。あれはどう見たってドSだよね。そこは共通認識ってことでいいんだよね。確認したら、土方は顔を顰めて頷いた。

「あいつは首輪つけたり縛ったりはするとこまではいいけど、言葉ぜ」
「……ちょっと待った」

 女の子をドSコートしちゃったり、ボンテージ姿のさっちゃんに目ェつけたり、その辺りからすでにドSなんだけど、総一郎くんは。俺の認識では。
 そう言ったら土方は目を丸くした。

「え、そこまでは普通だろ」
「えっ」
「実際問題首輪って、サイズ合わねえと怪我するから俺は面倒で使わねえけど」
「えっ」
「ボンテージはまあアリだろ。アレは女の体型の方が映えるから、俺は着ねえけど」
「……あのさ、」

 つき合ってる相手に、前の恋人の話をさせるのはマナー違反かもしれないけれど、聞かずにはいられなかった。

「つき合った訳じゃねえからなァ。まあ、女とヤるときはボンテージ着せることもあった」
「うわあ」
「どっちかっつーとサッサと終わらせてえほうだったから、着せるのは省略かな。バイブとか、ローターのほう使った」
「そうなんだ……」

 おまえ絶対その界隈のネエちゃんたちに噂されてるよ。真選組の副長サンたら、あんなキレイな外見して結構ハードなプレイするのねって。
 それにしてもこれが土方にとっての『普通』なら沖田くんはなぜドS扱いなのか。

「総悟はそれだけなんだよ。あとは言葉責めしたり、餌食わせたりするけど触らねえんだ」
「うん……そうだね」

 女の子をリードで引っ張ってって猫に混じって餌食わしてたなぁ。え、土方くんにとってはそれもノーマルプレイ寄りなの? 触らないって、そりゃ沖田くんは、

「惚れてるわけでもなさそうだったし」
「そうだろ」

 土方はうんざりしたように相槌を強く打った。

「惚れてもいねえ相手を縛ったり言葉で詰ったりするのはどうかと思う」
「うん……うん?」
「惚れてるんなら、ちゃんと最後までヤればいいのに。バイブとかディル」
「なんでそうなる」
「?」

 なんだかわかんなくなってきたぞ。
 惚れててつき合ってるなら縛ってもいいし言葉責めしてもいい、ってか俺や新八や神楽が普段沖田くんを見て『酷えコトするなぁ』と思う諸々のことは、土方から見れば『普通のヤり方』なのか。衆目監視の中でやらかすことも含めて。
 土方が何をもって沖田をドSと称するのか。どうやら境目は『気持ちのある・なし』であるようだ。好きな相手ならオモチャで弄くり回すのはアリ(というか土方にとっては普通)、言葉責めもアリ(土方にとっては以下同)、だけど好きでもない相手にそういう行為をするのは『ドS』、ということらしい。
 あれ。正しいんじゃね。好きじゃない子にちょっかい出すのは良くないよね。合ってるよね。

「女からしてみたら、総悟に惚れられてるって勘違いするだろ。そういうのは、良くねえと思う」
「……」

 思わせぶりなことすんな、ってことだよね。至極真っ当な意見だ。正しい。合ってる。
 あれ、俺土方の何に困ってるんだっけ。

 土方くんはもしかしたら、人一倍純情なのかもしれない。変態とはかけ離れた、ピュアなハートの持ち主。

「きょ、今日は……お前のヤり方でもいい、あっやっぱりせめてコレ、使ってほし、」

 と言いながら恥ずかしそうにローターを手渡してくる土方くん。今日のところはそちらの好みに合わせてあげようかな。今日のところは。




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