コチラの言い分


 万事屋と交際を始めてわかった。
 奴は変態だった。
 どれくらい変態かというと、奴はなんと俺のカラダの中を直接触るのか好きなのだ。なんという変態。直接って。中を直接って。
 最初は貧乏だから玩具が買えないせいかと思った。だが考えてもみろ。いくら金がないからって外を服も着ずに素肌を晒して歩く奴はいない。同じように、玩具も使わずにカラダの中を弄る奴がいるとは普通思わないだろう。
 だが、それをするのが俺の恋人だった。とんでもない変態だ。
 小道具は使いたくないと熱く主張してくる万事屋に、俺はしばらく抵抗したけれど敵わなかった。惚れた男の望みなら、それが多少変態色の強い嗜好でも叶えてやろうと腹を括り、直に触れられる羞恥を堪えて肌を重ねた。
 でも、たまには普通のやり方でセックスがしたい。
 好いた男の手で弄られる羞恥に耐えるのではなく、専用の道具を正しく使って普通の触れ合いがしたいと思うのは間違っているだろうか。

 縄ならどうか。少しは衣服に近いから、変態な万事屋でも受け入れやすいのではないかと思い提案してみた。奴なりに努力はしてくれたようで、しばらくはそれで事なきを得た。だが、ある日また奴は変態な要求をしてきたのだ。

「ねえ、コレいつまで続くの? そろそろ飽きねえ?」
「なにが」
「縄越しに触るのってさぁ、俺はあんまり……や、たまにはいいよ? 金輪際やりたくねえとまでは言わねえけど、あー、悪く言ってんじゃねえからな?」
「他に使いたいモンあるなら買っ」
「そうじゃねえよ」

 万事屋はため息を吐いた。

「使いたくねえの、俺は! 縛ったらおめー、手が使えねえだろ? や、手が空いてりゃいいってモンでもねえから! つまりだな、えーっと」
「はっきりしねえヤツだな。なんだ」
「おめーを縛るの、ヤなんだけど」
「? 縛られるほうがいいか?」
「論外デスヨ!?」

 ため息つきたいのはこっちの方だ。なんだ、縄もダメか。俺だって譲歩してるだろうが。ナカを指でグチャグチャされるの我慢してやってるだろうが。
 肌の触れ合いが縄で邪魔されるのが嫌いなのだと、万事屋は歯切れ悪く言った。それならわからんでもない。皮膚の触れ合いは直接的でもいい。そこは俺も同感だ。でも、

「中を直接触るのはどうかと思う」
「どうかと、っておめーさ、あの、」

 万事屋は目を伏せた。睫毛も銀色なんだ、こいつ。何度見ても感動する。

「AVとか見たことねえ?」
「!」
「一緒に見てみる? 一般的なヤり方、ってのもヘンだけどさ、」

 やっぱりど変態だこいつ。
 他人のセックスを覗き見るなんて、変態にもほどがある。そういう商品があって、それを見たがる人間がいることも知っている。だがそれは変則的な楽しみ方だ。倒錯的で秘すべき嗜好だ。誰かと、ましてや恋人と一緒に見るものではない。
 いや、待てよ。
 この男の属性はSだったのを忘れていた。

「ッ、お、俺が、見てるとこを見るのか」
「なんて?」
「一緒に見るとか言って! お前はっ、俺が……え、AV見てる、は、恥ずかしい姿をッ、観察するのか」
「えーっと、土方くん」
「お前がッ、それでヨくなるなら、お、俺はどんな恥ずかしいことでも」
「おーいひじかたー」
「なんてドSなんだ、恐ろしい……」



 そんなに変なこと言ったつもりはないんだけどなにが起きた。土方くんは急にもじもじと身を捩り出した。
 ドSってなんだ。AV鑑賞会って、そんなドギツイのじゃなくて至ってノーマルなジャンルにしようと思ってたのに。ていうかイロモノでは意味がない。ごく一般的なヤり方に近いヤツ選ばないと土方のおベンキョーにならない。
 だいたいAVって言っただけだろ、なにもSMモノ見ようって言ったわけじゃないのにいきなりこんなに恥じらっちゃうって、大丈夫なのこの子。
 なんだか盛大な勘違いをしてるけれど、そこを除けばきっと性に対して潔癖なんだろう、この男は。初心で純情なこころを持ちながら、何故か知識だけは三階級特進くらいのマニアックさを仕入れてしまったアホの子。それがどうやら俺の恋人であるらしい。
 それにしてもAV鑑賞に誘っただけでドS呼ばわりされるとは思いもしなかった。
 恥ずかしそうに俯いて震えている土方を抱き寄せ宥めながら、今回はどの辺を着地点にしようかと俺は思案し始めるのだった。




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