妥協案 「考えたんだけど」 久しぶりのデートで、土方くんは目を輝かせながら俺に何やら包みを押し付けてきた。 「お前貧乏だから素っ裸でセックスするしかなくて、繰り返してるうちにそれが当たり前みたいになったんだと思う。だから普通のセックスに戻すために、まずお前の違和感が少ないモノ使うところから始」 「うん、ここ表だからね。みんな聞いてるから」 お食事処でそういう話をするのはやめてほしい。あとまるで俺が変態みたいな話の切り取り方するのもやめてほしい。何だよ違和感の少ないモノ使うって。俺は道具マスト派じゃない。断固として違うと主張したいけどできないだろ、こんなとこで。 土方くんは不満そうに口をひん曲げた。ほんともうよくわかんないこの子。恥ずかしがり屋なのそうじゃないの。どっち。 「セックスは大事だろ」 「うん。でも二人で大事にすればいいことであって、公表することないよね」 「聞かれて困ることでもねえと思う」 「俺は困る」 「……」 誰だよこの子の性教育したの。ものすげえトンチンカンなことになってんだけど。責任者出てこい。どうせゴリラだろ。 なんて思ってたら土方くんは、蒼褪めて息を飲んだ。今度はなんだ。 「……俺とつき合ってるって、他人に知られるの困」 「違う。そうじゃない」 とりあえず一般市民どもがジロジロ土方くんに無遠慮な視線を投げかけるのが邪魔なので、涙目の土方くんを店から連れ出した。俺への視線じゃないって俺信じてるから。 夜の公園なら人もいないと踏んで、俺は土方の手を引いて公園のベンチに座らせた。 「あのな。例えばの話だけど、」 「……」 「や、えっちは大事よ? おめーとつきあってること隠したいわけでもないから」 「……ほんとか?」 「ほんとほんと。だからそんな顔しねえで、でも聞いて」 しょんぼり泣き出しそうな土方の機嫌を慌ててとって、同時に土方に理解してもらえそうな話し方を必死で考える。俺けっこう器用だな。 「えっちは大事だけど、例えばだよ? パンツ履かねえヤツはいねえ……いても、特殊な事情のヒトだけど、だからってデケェ声で今日履いてるパンツの柄の話はしねえだろ? それと同じで、えっちも」 と言いながら不安が募る。コイツ今日のパンツについて声高に語るくらい屁でもねえかもしんない。どうしよう、当たり前だろ、とか言われたら。 土方はホッとしたように強張った顔を緩めた。安心してくれたのは嬉しいけど不安が募って仕方ない。 「やっぱりお前と俺は以心伝心なんだな。心が通じ合ってるっつーか」 嬉しそうに何言い出すのかと思ったら。可愛いな、なんてつい見惚れてしまった。その可愛い顔の持ち主は、照れながらさっきの包みを再び差し出してきた。 「パンツ、やろうと思ったんだ」 「――は?」 「さっきの話の続きだけど。バイブも縄も違和感あるんだろ。だったら違和感少ないモノ使うとこから慣らしていけば、そのうち道具使ってもヘンだと思わなくなるんじゃねえかって」 「え? 違和感? なんの?」 「開けてみろ。パンツはパンツだけど、いつものとはちょっと違うから」 「え、ここで!?」 驚愕のあまり動作が遅れてしまった。俺が動かないもんだから、土方は親切にも包みを開けて中身を目の前に広げてくれた。 パンツっつーか、ヒモだよねこれ。隠すとこ明らかに少ないよね。頭隠して尻隠さずってヤツだよね。 「普通なら俺が履くヤツだけど、練習のためにお前が俺に履かせてからセックスしたらいいんじゃないか」 「……」 「あのな。普通はマッパで抱き合ったりしねえんだぞ? ナカ直接触ったりしねえし、そりゃAVは過激な演出するけど、普通しねえことを画面の中ですることに意義があるんだからな?」 「……」 「お前用のパンツも買おうと思ったけど、これに慣れてからのほうがいいだろ」 「……ソウデスネ」 俺用のパンツってなんだろ。尻隠して頭隠さないヤツかな。それってもうパンツじゃないよね。パンツってなんだっけ。 早く履かせろと公園でパンツをグイグイ押し付けてくる土方くんに、せめてホテルでって頼み込むのは大変だった。信じてもらえてないようだ。ほんと心外だ。 まあオモチャや縄よりずっと取っつきやすいかな、なんて思い始めてる俺は、もうソッチの世界に片足を突っ込んでいるに違いない。 前へ/次へ 目次TOPへ |