三たびため息


 今日の土方くんは何も失敗をしなかった。
 だから押しかけお仕置きもない。平和な一日だった。
 平和なまま平和にヤることヤって寝たいんだよ俺は。ヤらないわけにはいかないだろ。惚れた相手と布団並べて睡眠取るだけで満足できるほど俺はまだ枯れてない。年齢相応に欲求は満たしたい。普通だろコレ。

「だからね、そういう小道具はいらないんだけど。や、なんで驚く?」

 寝室に入ったら土方が目をキラキラさせて枕元にゾロゾロと、怪しいオモチャを並べてた。声を掛けたらびっくりしたように振り返った。

「よくまあ集めたねコレ。どんだけ好きなの。こういうの使わねえとアレなの?」
「俺が使いたいんじゃねえ」

 土方くんは目を潤ませて頬を上気させ、それでも不満そうに口を尖らせた。

「お前が使いたいだろうと思って」
「……は?」
「なのにお前、全然用意しようとしねえし。そういや貧乏だし俺の前にこ、恋人っぽいのがいた形跡もねえし、自分じゃ買えねえのかと思って」
「は? え、は?」
「俺と、つ、つき合う、ことになったからには、少なくともコッチは、俺が持つ、から」
「……」
「好みじゃなかったら、言ってくれればまた買うし」
「……ちょっと話を整理しようか、土方くん」
「?」

 土方は恥ずかしそうに視線をあっちこっちに彷徨わせた挙句、上目遣いにチラッと俺を見た。うん、可愛い、けれども。

「えーっと。土方くんは、えっちするのに道具は必須なヒト?」
「? セックスするのに素手でヤる奴いねえだろ。お前くらいだ」

 うわあ。うわあ。うわあ。
 生粋の変態だった。マジモンだった。
 ここに認識の違いの根本があったか。ここからして違ったのか。そら毎回持ってくるわ、オモチャ。自分で仕込むくらい屁でもないわ。つーか俺の怠慢扱いになってるわ、土方くんの中で。いやすげえ心外なんだけど。心外すぎて白目剥きそうなんだけど。
 ちょっと待って、キミ今までどんな奴とおつき合いしてきたの。本職ドS嬢とでもつき合ってたの。ええ。どうしよう俺、口ではドSを気取ってたけど実際ごく普通のヤり方がいちばんいいとか思ってるんだけど土方くん的にはそれはマイナスなの。もしかして俺がドSを公言してたからつき合ってみたとか?

 黙ってしまった俺の顔を、土方くんは首を傾けて覗き込んできた。くっ、かわいい。イケメンのくせに。ゴッツイ男のくせに。瞳孔開いてるくせに。変態のくせに。

「ぎんとき?」
「……土方くん。聞いて欲しいことがあるんだけれども」

 言いながらため息が自然と漏れた。
 大丈夫。性的嗜好が少しくらい合わなくたって、俺たちの気持ちはそんなんで萎むほどいい加減なモンじゃない。少なくとも俺は。俺はキミがどんな変態ちゃんでも大好きだよ。
 だから土方も、おもちゃ禁止令出しても俺のこと好きでいてほしい。ほんとお願いします。
 
 おもちゃ禁止令を言い渡そうと土方に改めて向き合ったら、両目が期待に潤んでいた。
 思わずお馴染みのため息が出た。




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