痛いのがお好き


※モブ土、暴力、大スカ、他。




「み、見られた」

 ある日土方は蒼白になって、俺の部屋に駆け込んできた。

「あ?」
「つるつるッ……見られた」
「ふーん……誰に」

 それが近藤や、沖田や山崎だったら、俺はそれをネタに土方の羞恥心を煽りに煽って、酷く抱いただけで済ませただろう。

 別の日にまた、土方が沈み込んでいるのを見た時、良くない感情が俺を襲ったのだ。

「どうした」
「ううん。なんでも」
「なんでもってツラじゃねえぞ」
「や、ほんとに。なんでもねえ」

 それから一か月もしないうちに、土方は服を着たまま俺の部屋で過ごすようになった。
 丸一日は黙って許した。
 二日目の昼。

「脱げ」

 この部屋では土方は素肌を晒して過ごす。それがルールだった。ただ着る暇がなかったから、と最初はそんな風だったが、ここでは服は着せない、と俺が宣言し、土方は嬉々としてそれに従ったのだ。
 身に纏うのは秘めた部分に施したアクセサリーと、それを繋ぐ細い金の鎖。土方の肌を傷めないように、それでも辱しめには充分なるように、乳首から陰嚢から、金のピアスをいくつも付けてそこに鎖を通し、白い滑らかな肌を飾ってやるのだ。
 ピアスの穴を手入れするのは俺の仕事だ。増やすのも、俺の仕事だ。乳首にはもう二つ開けてあげた。小さくピンク色の乳首には、土方の眼の色と同じ青いピアス。でも、房飾りがどうしても付けたくなって、もう一つ穴を開け、一緒に選んだピアスをつけた。二つ目を痛がる泣き顔にゾクゾクした。
 陰嚢にはもう二つ開け、連なる飾りをつけてやった。そこを膨らませると土方の陰嚢はキラキラと輝き、欲の溜まった箇所を際立たせる。美しい。土方の身体が。特に淫らな毛を排除してからは、土方の秘めた部分はますます美しく俺を惹きつけて止まないのだ。

 それを、他ならぬ俺に見せようとしない。脱げと命じれば蕩けるような笑顔で全てを脱ぎ去っていた土方が、今日はおどおどと俺の顔色を伺うばかりで、脱ごうとしない。

「脱げ。聞こえなかったか」
「……今日は、」
「聞こえねーんだけど」

 机なんか叩いてみる。土方はびく、と体を竦めた。

「ここでは裸って決まりだったよなあ? え? 俺に見せられねえモンでもついてんの? 土方くんよ」

 脅しで口にしたつもりだった。だが言った途端、震えが来た。恐怖、と言える震えが。
 土方もまた、震えている。だが心を決めたのか、それともずっと迷っていたのが今俺の脅しのせいで決心がついたのか、のろのろと――あの、最初にここで身体を晒した時のようにのろのろと、服を脱ぎ始めた。


「おまえ、ピアス、は」
「……盗られた」
「胸だけ、だよな」
「いや。下のも」
「……」
「リングは、外せなかったみたいで、」
「みたい?」
「……ヘンタイって、言われた。アンタの、ことッ……」

 やっとの思いだったのか。
 絞り出すようにそう言った土方は、膝をついて、ポロリと涙を零した。

「でもッ、ちんちんは挿れられてねえから! セックスは、してねえから!」
「……誰と」
「大学の、せんぱ……ぐずっ」
「カラダ見せて、弄らせたのか」
「でもッ、ちんちんは……」
「うっせえ! 卑猥な言い方すんじゃねえ!」

 いつもの言い方が、それはそれは穢らわしく聞こえて、


 ――せんせいの、おっきなおちんちんを、ここにください


 あの可愛らしいおねだりが、汚らしく猥らに貶められた気がして、

 気づけば土方を酷く殴りつけていた。何度も、何度も。
 美しい顔は腫れ上がり、蒼い眼は腫れて塞がり、口元は歪んで、膨れ上がった頬に鼻は埋もれ、

「ぐええ……」

 腹を殴ったら土方は蛙のように這い蹲って胃の中の物を吐いた。汚らしかった。
 床を拭け、片付けろ、と怒鳴った。糞尿さえ愛しかった気持ちは極限まで冷め、土方から排泄された物が汚くてならなかった。
 土方はえづき、泣きながら床を拭った。土方の触れた物さえ気に入らず、腹を蹴って退かして、キッチンから消毒剤を持ってきてぶちまけた。
 バケモノのように顔を腫らして、土方は泣いた。

「きい、て……ぎん、ぱ、」
「黙れ。出て行け」
「ほんとに、おれ、」
「聞こえねーのか。出てけっつってんだ」
「おね、が……、きい、」

 土方の股間には俺の所有物の証であるリングが嵌ったままだ。かつて可愛らしいとしか思えなかったその無毛の性器も、気色悪いとしか映らない。

「なに、言い訳してえの? 他の男に弄らせたくせに。カラダ弄られたんだろ? あ? じゃなきゃ取れねえよな。股のピアスもねえってこた、そこも弄らせたってことだよな!」

 誰が、誰が、だれが。

 土方の甘えた笑顔を見て、安心しきった蕩ける声を聞いて、身体の奥に触れたのか。

「ケツマンコに指でも突っ込ませたのか。ああ? 充分汚ねえわ。ちんぽ咥えなくても淫乱だよテメーはッ」
「……せんせいは、浮気じゃないって、言ってた、から、おれは」
「は……」

「可愛いコ引っ掛けて、お尻でイかせるまでは、う、浮気じゃないしセックスじゃないって、」

「……ッ」


 確かに言った。言ったどころか、相手の媚態を土方に事細かに聞かせて、嫉妬を煽った。それが今までの俺の『普通』だったし、土方が喜んでそれを聞きたがるから、わざわざ別の子とセックスをして不都合な部分――もちろん浮気相手に突っ込んでヒンヒン啼かせたところは省いて、土方の嫉妬を煽りつつも『セックスはしていない』と納得させていた。
 そもそもは土方が、尻で快感を丁寧に与えてやったにも関わらずこれはセックスではない、俺の物で繋がらなければ納得しないと迫ったのだ。いや、それをいいことに、それを真に受ける振りをして、良いようにしてきたのは、

(俺だ)

「聞くだけ聞いてやらァ。別の男に弄らせた言い訳ってのを」

 こんなに偉そうに言って良いことではない。土方にセックスを教え、かなり変態じみた俺の嗜好を仕込み、これを当たり前と思い込ませたのは、俺なのだ。
 土方の言い訳は、まあ、ありふれたものだった。
 友人二人が土方の部屋に遊びに来た。泊めるつもりで呼んでいたから、風呂も貸した。そこで土方の、日常であってそれでも些か特殊な物を見られた。
 脱毛クリーム。

「女がいんのかって聞かれて」
「……ああ、」
「俺が使ってんだって言ったら」
「……」
「どこに、って」

 土方気に入りの、陰毛除去。剥き出しの性器を愛撫しながら、浮気してもいいんだぜ、と言ったのは俺だ。

「言いたくなくて……黙ってたら、面白がって服、脱がされて」

 乳首のピアス。それだけでもなかなか面白いネタになっただろう友人らは、土方を全裸に剥いた。

「タマの、ピアス、見つかって、リングも……!」

『それはッ、俺の、』
『んん? ご自分でも気に入っておられる、と。やめることです。こんなことは』
『やだ……触んな! さわるなって、言って……アッ、いたッ』

 外した拍子に針で肌を傷めて、それを快感と受け取った土方の身体は、きっとみるみる反応したに違いない。男ならそれを眼前に、血が騒がないはずもなく、

「こんなのっつけなくても! 気持ちよくしてやるとか……言われて! 二人がかりで」

 ブツの挿入だけは許してくれと泣いて懇願し、その代わり男たちは土方の身体にいいように自分の欲をぶつけ、何度も放出して汚して行ったのだと土方は泣いた。
 もちろん、土方の尻穴は犯されていた。

「指も、ヤダって言ったら……ビール瓶突っ込まれてっ、どこまで拡がるかって、中、洗ってねえ、のに」
「漏らしたのか」
「も、もれちゃっ、」

 さすがに引いた二人の『友人』は、汚物を漏らした土方をそのままに退散したという。

「ほとんど全部ヤられてんじゃねえか……しかも輪姦って、テメー」
「でもッ」
「うるせえ。んで? 漏らした糞はテメーで始末したのか」

「……いつも、あんなんさせてたんだなって、おれ、ぎんぱちに、」

 腫れ上がった唇から土方は、震える声をやっと押し出した。

「汚ねえよな、おれ、ごめ、……も、しね、から、うまく、お尻からっ、お湯飲むから、ごめ、」
「そーゆう問題じゃねえだろう……馬鹿」


 これがあの美しい土方か。
 人相が分からなくなるほど顔を腫らし、腫れ上がった瞼と頬が目を潰し、唇はいつもの三倍にも膨れ上がり、

 ――俺が、やったのか。これを


「土方、別れよう」

 土方は、息を飲んだ。


「俺はもう……お前を大事にしてやれねえ」




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