02


伏見猿比古。
元・赤のクランであり、10代にして現在セプター4のナンバー3。おまけに頭脳明晰、眉目秀麗ときた。

…………何なんだ、あいつ。

ムカつく。
欠点の一つくらいあったっていいじゃないか。

私より後にここに来たくせに…
私より年下のくせに…
なんで、私はあいつの愉快な玩具にされてるわけ……

私は伏見に押し付けられた仕事を黙々とこなしながらそんなことを考えていた。

現在の時間は午後11時00分。
…通常の勤務時間はとっくに終わっている。つまりまぁ…なんだ…

「残業かよ畜生……」

私はそう呟きながらうなだれた。

早く寮の部屋に帰りたい…
ていうか…こうなったのも全部伏見のせいだ……
あんなやつ、大嫌いだ。

「ったく……なんなんだよ伏見はよぉ…あのメガネ、オシャレのつもりかよ太い縁が逆に腹立つんだよ。あのイヤメガネ…」
「誰がイヤメガネだって?」
「ひゃぁぁっ!?」

突然耳元で誰かが喋ったので、私は驚いてそのまま椅子ごと倒れてしまった。
ドターン!と盛大に音を立てて倒れると、視界がデスクから天井へと変わる。

そこにぬっと現れたのは……

「伏見……さん?」
「他に誰だってんだよ。何、頭打っておかしくなった?」

あぁ、頭がおかしいのは元からかと、そんなことを言いながら愉快そうに私のことを覗き込む伏見。
どうやら後ろから現れて、私が倒れる瞬間に避けたらしい。

「避ける暇があったなら、助けてくれたってよかったじゃないですか…」
「嫌だよ、つまらない」

平然とそう言う伏見に腹が立って、私は勢いよく立ち上がろうと……したのだが

「いっつ……」

どうやら椅子ごと倒れてしまったために、椅子の背もたれに背中を強く打ち付けてしまったらしい。立ち上がろうとした瞬間、背中に強い痛みが走った。

「何、どっか痛めた?」
「ちょっと背中強く打っちゃったみたいで……起き上がれないです」

私は涙目になりながらそう言った。
やばいなー、背中の骨やっちゃったかなー。でも…目の前で私がこんな風になってても、この男は助けてなんかくれないんだろうな……

やっぱりこいつなんか……

そう思った瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。

「……へ?」
「この時間、医務室には誰もいない……か。まぁ何もしないよりマシか…」

そんなことをぶつぶつと言う伏見。
いやいやそうじゃなくて、私、今伏見に…抱えられて……

これっていわゆる…お姫様だっことかいうやつで……

「ふふふ伏見、何して」
「伏見さんだっつってんだろ。今からお前を医務室に連れてくんだよ」
「じゃなくて!!…お、重くないの?」
「あぁ重いね。すげー重い」

そう言われて、恥ずかしさで死ぬかと思った。別に太ってるつもりはなかったのに…

私が「降ろせー!!」と騒ぎながら足をばたつかせると、伏見は小さくため息をついた。

「冗談だ、重くない。むしろ軽すぎて驚いてる」
「……嘘だ」
「じゃあ担がれたほうがいいか?」

伏見にそう言われ、私は伏見に担がれてる自分を想像した。
………ないな。そもそも私は荷物じゃない。

「こ、このままで……お願いします…」

私がそう言うと、伏見はまた満足そうな顔をした。


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