01
小さなころから、まぁ何事もそれなりにはできてきたつもりだ。
周りからは「器用貧乏」などと言われ、損だなんだの言われてきたけれど、そのことについて何かを思ったことは、まだ、ない。
そんな私だ。
もちろん人間関係も今までうまくやってきた。
当たり障りのない程度に、微妙な距離感を保って。
けれど。
どうやら人間、人生において「こいつはダメだ」と感じてしまう人間がどうしてもいてしまうらしい。
それは私も例外ではなく、
そう、例えば―――
「伏見ィィィィィィィィ!!」
セプター4の情報課の使用する一室で、私は叫んだ。
さすがに今回ばかりは我慢ならなかった。周りから変な目で見られることも覚悟で、私は彼の名前を叫んだのだ。
一方、名前を叫ばれた相手――伏見猿比古は、あからさまに不機嫌な表情をして、こちらに向かってくる。
「おいコラ伏見!!あんた私が今超仕事が溜まってて参ってるって言った矢先にこんな大量の仕事を押し付けるなんて一体どういうつもりでむぐぅっ…!?」
そこまで言ったところで、正面から乱暴に口を塞がれた。
誰にというのは、まぁ言うまでもなく、伏見に。
「瀬尾……こっちこい」
伏見は苛立ちを隠そうともせず、低い声でそう言うと、ずるずるとそのまま私を廊下まで引きずった。
*
抵抗することもできずに、人気のない廊下まで引きずられてきた私は、ようやく伏見から解放された。
「らっ乱暴者!!」
「うるせぇよ」
伏見はガンッと、私の隣の壁に乱暴に足をつく。
「あそこで叫ぶとかお前、頭おかしいんじゃないの?」
「うるさい。私今怒ってるから。だいたい伏見はなんでいつも…」
そう言いかけると、伏見の顔がぐいと私に近づく。それは鼻と鼻がぶつかるくらいの距離で……
「伏見さん、だろ?」
「……っ」
私が悔しそうな顔をすると、伏見は満足そうな表情をして、私から顔を離した。
「私の方が年上なんですけど」
「たった1歳だろ」
「……私の方がここにいるの長いんですけど」
「でも立場は俺のが上だ」
……それを言われると私は何も言い返せなくなる。
悔しいことに、ここでは私より、後に入ってきた伏見の方が立場が上だ。
つまり、伏見は私なんかよりずっと優秀なのだ。
「………伏見さん」
私が小さな声でそう言うと、彼は再び満足そうな表情をする。
「その顔ムカつく」
「へぇ、そんなこと言っちゃっていいの?」
「……失礼しました。何でもありません」
……また満足そうな表情しやがった。
私が悔しそうに何かをする度に、こいつは喜ぶ。
そう。彼が私の上司である、それ以上に悔しいことに、私は彼にからかって楽しい玩具扱いをされているのである。
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