02.
(06の8あたりのおはなし)
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「お前が『友達』で良かったなって思って」
そう言った瞬間、友達、という言葉に目の前の忍が表情を変えた。ほんの一瞬だけ、それも右頬がちょっと引き攣っただけ。ふつうなら「気のせいかな」で見逃してしまいそうなくらい些細な変化だった。
けれど俺はたったその一瞬だけで、忍の気持ちがわかってしまった。
さっきは自分のことを「鈍感なのかもしれない」なんて言っていたのに、それはどうやら気のせいだったらしい。いや、あるいはもしかしたら、忍に対してだけは敏くなってしまうのかもしれない。
つまり、忍だけが特別、ということだ。
きっと、忍はいつも通りにへらへらした笑顔を浮かべようとしているのだろう。でもそれは失敗に終わって、なんだか奇妙な表情になっている。まるでピエロみたいだ。
忍も俺も何も言わない、なんとも言えない沈黙が辺りを包む。そんな状態が十数秒続いたところで、俺はたまらずふっと笑ってしまった。
「冗談だよ」
「……えっ?」
「悪かったな、からかって。お前のこと、ただの『友達』なんて思ったこと、一度もねぇよ」
安心しろって。
そんな投げやりな言葉を書けながら髪にキスを落とせば、忍はポカンとしたのちにはっと目を見開いて、それから顔を耳まで真っ赤に染めた。
「えっ、ちょっ、めーちゃ、な、に言って」
「あれ、そういう意味じゃなかったわけ?」
今の表情は、てっきりそういう意味だとばかり思ったのだけれど。
友達なんかじゃ嫌だ、でもめーちゃんは俺のことそう思ってるんだよね、なら仕方ないね、悲しいけど。っていう。そんな表情だとばかり思った。
思ったことをそのまま声に出すと、図星だったのか返す言葉がないとばかりに口をパクパクさせる忍。あまりにもわかりやすすぎる反応に苦笑する。
やっぱり、俺が敏いわけじゃないかもしれない。単に、こいつがわかりやすすぎるだけだ。
「なぁ、忍。お前が好きなほう選べよ」
「え、選ぶって、なにを……」
「友達か、恋人か」
お前は俺とどっちの関係になりたいんだ? って、ストレートにもほどがある問いを投げかけたら、忍は一瞬のためらいの後に赤い顔でこう答えた。
「……こ、こいびと、で……」
おねがいします、と消え入りそうな声で付けたされる。
――ああ、もう。
俺の恋人、可愛すぎませんかね。
(結論:スーザンが超乙女っぽくなる)
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