01.


(01の03あたりのお話)









スーザン@susan-11
 @meemee-yagisan とりあえずほっぺにちゅーしとけ



 転校先の学校に来たら、案内役らしき人が眠っていた。そんなことをツイッターに報告した俺への、悪友の返答はそんなものだった。
 いやいや、ちゅーって。しかもほっぺって。なんだその言い方、と内心でツッコミを入れながら、体育座りで眠るこけているその人を観察してみる。

 目を閉じた横顔は十人が十人「イケメンだ」と答えるだろうなと思わされるほど整っている。髪の毛は薄茶色で、サラサラとして肌触りが良さそうだ。しゃがみこんでいるせいでよくはわからないけど、きっと背だってそこそこある。
 なんというか、すごくモテそうだな、っていう感じの男だ。

 けど俺は、誰しもが「格好いい」と答えるだろう彼の寝顔を、不覚にも「かわいいな」なんて思ってしまった。
 こんなところで無防備に、すやすやと規則正しい寝息を立てながら、それでもなにかから身を守るようにぎゅっと自身の足を抱えている彼。
 これを可愛いと言わないで、一体何を可愛いと言えるのだろう。

――ほっぺに、ちゅー

 さっき悪友が冗談で俺に投げかけた言葉が脳裏を横切った。ほっぺにちゅー。できない体勢じゃないな、と思った次の瞬間にはもう、まだ名前も知らないイケメンな彼の頬に唇を寄せている自分がいた。

「ん……」

 突然の接触に違和感を覚えたのか、イケメンが身じろぎする。数回うめき声をあげたかと思うと、閉ざされていた瞼がそっと開いた。パチクリ、意志の強そうな目が瞬きしたのちに俺の姿を捉える。

「あれ、俺、寝てたのか……お前……?」

 状況を把握しきれていないのか。ぶつぶつ呟く声すらもイケメンだった。有名男性声優も真っ青だろう。
 そんなハイスペックイケメンな彼はごしごしと目元を擦った。それから、ふと俺の服装に目を止める。

「ああ、お前が転入生?」
「はい」

 この学園の制服ではなく、私服を着ていることからそう判断したらしい。頷き返すと、イケメンは「そうか」と納得したように言って立ち上がった。そして、一度頭を下げてから自己紹介してくれる。

「待たせて悪かったな。黄銅学園高等部、生徒会長の柏木理一(かしわぎりいち)だ」
「生徒、会長さん」
「ああ」

 これだけスペックが高くて、更に生徒会長なんていう地位と権力まで持っているとは驚きだ。そんな彼の寝顔が、ひどくかわいいということにも。

「会長さん、ねぇ」

 にやりと意味深に笑ってみせれば、柏木理一と名乗ったそのイケメンは不審そうに眉をひそめた。ああ、そんな表情もかわいい。整った顔が歪んだり、へにゃってなっているギャップがいいんだろうなぁ、なんて冷静に分析してみたり。

「会長さん、もっと気をつけたほうがいいんじゃないですか?」
「……どういう意味だ?」
「どういう意味、ねえ」

 しゃがみこんだままだった状態からよいせと立ち上がって、どこかきょとんとした顔の会長さんにぐっと顔を近付ける。

「こんなところで寝てたら危ないですよ、ってことです。ホラ――俺みたいなのに、ペロッと食べられちゃうかもしれないじゃないですか」

 そのままペロリと唇を舐めてやれば、会長さんは一瞬遅れてからビクリと体を震わせて後ずさった。

「お、お前……な、なにして、」
「なにって、ほら。会長さんに『どういう』意味なのか、身を持って知ってもらおうかと」

 顔を赤くしたり青くしたりと忙しい会長さんを見ながら、俺は内心笑いが止まらなかった。

――良い獲物、みいっけ

 つりあがる俺の口角に、ぶるぶる体を震わせる会長さんは、まるで狼に狙われた子ヤギかなにかのようだった。



(結論:ヤギが狼になる)

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